学会発表を最後にしたのは、日本で外科医をしていたときだったので、かなり昔です(笑)。
日本の医師として学会発表していた時は、まるで義務のように(今から思うと時間の無駄)していたので、発表自体を楽しんだことはなかったですが、今回は楽しかったですね。
日本の方も他の国のお医者さんも、私の発表に後いろいろ質問をくれてました。
その後も、何人かのお医者さんと知り合いになり、楽しい体験でした。
幾つか興味深い発表などがあったので、報告します。
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興味深かったセッション
Social accountabilityについてのワークショップ
これはなんの予備知識もなくふらっと入ったのですが、5−6人のグループになって『Social accountabilityとは何か?』『なぜSocial accountabilityは大切なのか?』などを話し合いました。
『Social accountability』がどうかということよりも、いろいろな国の状況を聞くことできたのが興味深かったですね。
中でも、シンガポールの医師が言っていた、コミュニティが、医学部に行く人を選ぶという話。
現在もやっているということなのか、昔の話なのかというところは聞きそびれ、その後質問をする機会がなくて詳しいことはわかりませんでした。
インターネットで調べてみましたが、情報は見つかりませんでした。
バックグラウンドになる考えとしては、その人自身が医者になりたいかどうかということに加え、医者が助けることになるコミュニティ全体が、この人に医者になってほしいかどうかということが重要ということ。
まるで政治家の選挙のようですが、コミュニテイと医師が双方ともそんな気持ちで働きかけ合うのは理にかなっているように思えます。
Team-based learning (TBL)
これはHong Kongの2人の素敵な女のお医者さんが、Hong Kongの医学部で学生に行っているTeam-based learningのデモンストレーションをしてくれました。
私は知らなかったのですが、Team-based learning自体は既に知られている方法であるとのこと。
ウィキペディアにも概要がありました。
プレゼンターの香港の先生が先生役で、参加者の私達は、学生役。
TBLのプロセスはこんな感じです。
1.Individual pre-work
医学生はあらかじめ、Murtaghの有名なGeneral practiceの教科書を読むように宿題を出されます。
2. Individual Readiness Assurance Test (IRAT)
次に学生はそれぞれ試験問題の紙を渡され、自分の知識を使って答えを書きます。
3. Team Readiness Assurance Test (TRAT)
学生は何人かずつでチームを作ります。
まずはチームの中で話し合いをして、それぞれの問題についてみんなで合意した答えを出します。
もちろんチームの全員が同じ答えを最初に出したとは限らないので、みんなの意見が合わない場合は、グループ全員で話し合って答えを一つに絞る、ということになります。
その過程に、さらに学びがある訳です。
先生から生徒に、正解が載っているスクラッチカードがグループに配られます。
最初の試みで答えが正しかったら5点、2回目の試みで正しかったら3点、3回目のトライで正解なら1点というように点数をつけ、最後にすべての問題の答えに対する点数を合計します。
- Appealing time
チームが出した答えが、スクラッチカードに載っている正解と違っていた場合、どうしても納得がいかなければ、自分たちが正しいと思う答えとその理由を書いて、先生にアピールすることができます。
先生がその理由を読んで納得すれば、正解として点数をもらうことができます。
それぞれのチームで、最初の個人個人の点数と、グループでの点数を合わせで、最終的なグループの点数を出して、どのチームが一番か決めます。
ここで面白かったのは、スクラッチカードに正解と書いてある答えには、時々引っ掛けがあるということ。
つまり、正解としてスクラッチカードに書いてある答えが、わざわざ間違った答えになっていることがあるのです。
生徒たちが与えられた答えを鵜呑みにせずに、自分たちで考え、正解をチェックして、納得できなければ話し合うという、本当の勉強に欠かせない要素を取り込んでいるところが、うまくできているなと感心しました。
あまり期待しないで行ったワークショップだったのですが、これはとても楽しかったです。
香港の今時の医学生はこんな感じで授業を受けているのかと思うとうらやましいですね。
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Medical entreprenorship
これは若い医師を対象に、entreprenorship を育てるための授業で、インドネシアの若いお医者さんがワークショップをしていました。
彼はインドネシアの医学部で学生たちに同じような授業をしているということ。
学生達が興味があること、問題として感じることを解決するために、どんなことをしたいかをブレインストーミングして、コンセプトを作り出し、ITを使ってビジネスを作り出す。
このようにして、年上で経験の豊富な医者達と対等な立場で、若い医者たちが、医療を良くするために働ける、ということが目的のようです。
こんな授業も、日本の医学であったら楽しいなあと思います。
ただ、ITビジネスをするかどうかより、自ら問題を探し出し、自分の力でその問題への解決法を考えるという姿勢を学ぶことに意義があると思いました。
日本の医学部の授業は、知識の詰め込みがほとんどです。
実際私が医学生の時は、授業は本当につまらないと感じました。(教えてくださった先生たち、ごめんなさい。)
多分、今の私が医学部の授業に戻ったら、もっと興味深く授業が受けられるのではないかとは思います。
なぜなら、十分に臨床の知識と経験があるので、医学部で教えられることが実際に患者さんを助けるのに意味があることだということが、わかるからです。
ただ、まだ患者さんと接触したことがない医学生達には、もう少し違ったアプローチが必要ではないでしょうか。
生身の患者さんを助けるのに、解剖学の、生化学の、病理学の、心理学のいろいろな知識が役に立つのだということを、学生たちを飽きさせることなく日本の医学部で教えてくれるようになったら、素晴らしいことだと思います。
(これは、うん10年前の私の経験に基づく発言なので、多分今はいろいろ改善されているのでしょうが。というか、改善されていることを期待しています。)
Young GP/family doctors
これはWONCAの中にある、Young doctor のグループのリーダーになっている若い医者達がスピーカーになって、どんな活動をしているかなどの話をしていました。
みんなとても熱意があって、楽しく活動をしているようでした.
ただ、残念だったのは同時に開催されていた『日本プライマリケア学会』だけに参加している日本のお医者さん達は参加できないようになっていたことです。
英語を話し聞き取る能力があり、リーダーシップを取ることもできる若い医者達はこのWONCAのグループに参加して活動するのはとても楽しいのだろうと思います。
ただ本気で世の中を変えていく気があるならば、英語が得意でない、リーダーシップを取るという自信もあまりない大半の若い医師達を巻き込んでいかなければ、結局大きな変化をもたらすことはできないのでは、思ってしまいます。
今から10年後も、やる気があり、自信もあり、語学力がある少数の医者だけが、交流をして楽しい時間を過ごしている、ということで終わっていないことを期待しています。
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最後に
今回の学会参加者に、自分が医学部卒業の初期研修で一緒に仕事をしていたお医者さんを見つけ、うん十年ぶりに話をしました。
来年のWONCAのアジア、オセアニア地域の学会はニュージーランドのオークランドであります。
私の働くクリニックや街でやってみたいと考えているプロジェクトが幾つかあるので、次の抄録の締め切りまでに結果がまとまっていれば、来年も学会発表してみようかなと思いました。
この後北海道で、若いお医者さんと話をしたり、病院を見学する機会をいただいたので、楽しみです。
休暇と言っても、あまりゆっくりすることはできませんが、大変有意義な一時帰国になっています。この機会を与えてくださった方たちに感謝しています。