今回、2020年1月に東京と名古屋で、総合診療科の先生方とお話をさせていただける機会を得たので(私の押し売りだったのですが。笑)、その際に私が用意するものとして、ニュージーランドのGPトレーニングプログラムがどのようになっているのか、まとめてみました。
日本の研修プログラムについて教えていただこうと、今からワクワクしています。
自分自身はこのニュージーランドのGPトレーニングプログラム(General Practice Education Program - GPEP)を経験してきたのですが、かなり昔のことなので自分の記憶が定かでない部分が多かったこと、また10年以内に変更された点がいくつかあるので、そのあたりも確認して2020年1月現在でのプログラムについてまとめました。
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General practice (総合診療)専門医トレーニングプログラム GPEP の概要
GPEPは日本での後期研修に当たります。
これは、フルタイムでトレーニングをした場合、3年で終了するようになっています。
日本と同じですね。
基本的にはGPEP Year 3(GPEP3)が終わるときにフェローシップ(専門医)のアセスメントを受け、それに合格するとフェロー(専門医)になる、という仕組みです。
もしもアセスメントに合格しなくても、とりあえずGPEPは終了となって、フェローシップのアセスメントをまた準備ができたところで受ける、ということになります。
GPEPはパートタイムでトレーニングを受けることもできます。
赤ちゃんや他に世話をしないといけない家族がいたり、別のトレーニングプログラムも並行して受けていたりとか。
働くお母さん医師にはありがたいです。
決まりとしては
- GPEP 2年目(GPEP2)開始後から5年以内にGPEP3までを終了させること
- またGPEP2開始後に3年までの休止期間を取れる
というものがあります。
海外に行く人も多いし、出産で産休を長く取りたい人もいるので、その辺もありがたいですね。
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GPEP中の給与
GP レジストラ(後期研修医)も病院で働くレジストラに準じた給料を要求することができます。
GPEP 1年目中は
- GP学会に雇われる
- GPクリニックに雇われる
- 自営となり、GPクリニックと契約する
の3つの形から選ぶことができます。
1の場合は6ヶ月ごと2つのクリニック(1つは大都市でない場所)に行く必要があります。
給与は$76,000/年程度(500万円ぐらい)で、試験の費用や他の経費なども国から払われます。
よほどクリニックと契約した給与が高くない限り、多くのレジストラはこれを選ぶのではないかと思います。
2の”GPクリニックに雇われる”場合は、自分でクリニックを見つける必要がありますが、移動することなく1つのクリニックで12ヶ月働き続けることができます。
GPEP 1年目(GPEP1)ののトレーニング費は国が払ってくれます。
ただ、GPEP1終了時の試験の費用は自分で払わないといけません ($2,300+GST)。
給与はクリニックと自分が交渉して、クリニックから払われることになります。
多くのGPクリニックはGPは自営で、クリニックと契約する、という形を取っているので、働くクリニックによってはこの選択肢は選べないかもしれません。
3の”自営となり、GPクリニックと契約する”という場合は、GPEP 1のトレーニング代($40.000+ GST)も自分で払うことになります。
また、クリニックと交渉して、どのように仕事に対する対価が支払われるか決めないといけません。
よくあるのは、半日(約4時間)を1セッションとして、セッションごとにいくら払われる、という契約。
他には、クリニックの収入に貢献した分の50%とか60%が給与として支払われる、という形。
例えば、10人患者を診て、クリニックに$400の収入が入ったら、50%分の$200、そのGPに支払われる、という感じです。(数字は全く適当なので、参考にしないでください。)
GPEP 2-3年目は、働いているクリニックから給与を受け取ります。
またGPEP2からはGP学会の会員になり、毎年学会費を払い始めないといけません。
GPEPを始める前に
ニュージーランドではGeneral Practiceへの導入として、ニュージーランドの医学部で勉強中に、学生が4週間ぐらいの予定でGPクリニックを見学、研修しにきます。
ニュージーランドの医学部学生と卒業生に取ったアンケートによると、だいたい20%ぐらいの人が、General practiceを将来の進路として考えているようです。
また、医学部卒業後の初期研修の期間には、初期研修の一環として、GPクリニックや僻地の病院・クリニックにローテートの一環として、3ヶ月ローテートできるようになっています。(必須ではない。)
GPEPに申し込むには
日本でも同じだと思いますが、GPEPのトレーニングに入るには、申請後に試験があります。
まず
- ペーパーワーク(医師免許、国籍・永住権を証明するもの etc.)
- 推薦状 (3人のプロフェッショナルから)
- 500語以内のパーソナルステートメント。(自分について語り、なぜGPになりたいかなどを説明)
を提出。(他にお金を払ったりとか色々ありますが)
その後、”ストラクチャード インタビュー” というものがあります。(私の時はなかったので、現在のレジストラに話を聞いてみました。)
これは12ステーション(部屋)があって、それぞれの部屋で医学に関した質問をされ、意見を訊かれる、というものです。
オークランド大学で1年目の終わりに、医学部へ入れるかを決めるインタビューと同じような感じです。
質問の例としては、
『水道水へのフッ化物添加について、あなたはどう思いますか』とか
『ニュージーランドの医療の不平等さについて、あなたの考えを述べてください』
とか。
正解があるような質問ではないのですが、コモンセンスがなかったり、今まで何もそういうことに関して考えたことがなかったりすると、答えに困ると思います。
この過程で選考に落ちて、GPEPを始められない人は少数ですが存在します。
ちなみに、選考後GPEP1を始めるGP後期研修医の数はここ数年、平均187人/年。
(ちなみにNZ医学部卒業生数は約500人/年です。)
GPEPを始める人は、もちろん最初からGPになろうと思っている人が多いと思いますが、他の専門のトレーニングに進んで、途中でGPへ進路変更する人もいます。
GPEP 1年目 (GPEP1)
GPEP1はフルタイムであれば、12ヶ月という期間で、多くの人は6ヶ月ごと2つのクリニックで研修することになります。
- 同じ地域のGPEP1研修医で小グループ(6−10人くらい)を作り、GP educatorが割り当てられる
- GP 指導医のいるクリニックで研修
- 4日/週 クリニックで働く+1日/週 セミナー
- (パートタイムなら最低 2.5にち/週はクリニック勤務)
- 最初は診察時間 20-30分/患者で始め、慣れてきたら15分/ 患者
という感じです。
実際の研修医の生活は
クリニック
クリニックでの研修はこんな感じ。
- 自分で患者さんを診て、必要に応じてGP指導医にレビューしてもらう
- 週に1回、GP 指導医と時間をとって症例についての話し合い、診断の仕方などの復習。他に問題点があれば話しをしてサポートを受ける。
- 自分のコンサルテーションをビデオに撮り、GP指導医や他のGPEP1のメンバーとレビューする。
セミナー・ワークショップ
週に1回、定期的に他のGPEP1のメンバーとGP educatorと集まって勉強会をします。
そこでは、ロールプレイ、発表、ディスカッション、ビデオのレビュー などを行います。
研修のスケジュール
こんな感じです。
*一番右の『終わられるタスク』にあるものの説明
Match questions あるトピックについて10個の質問と答えを作成、グループの研修医が答える
Kahootというサイトやアプリを使ってやっていると、最近うちのクリニックにいたレジストラは言っていました。
What the evidence base suggests (WEBS)
自分で学びたい疑問に対する文献調べをする。4文献を選び、選んだ理由、それぞれの文献の内容の概要、strength and weakness、take-home メッセージをは発表する。
ビニエット Vignettes
ある症例について、以下の情報をA41枚にまとめる
- The evidence base or the uncertainty base
- NZ and local guidelines (where possible)
- Differential diagnoses, narrowing the diagnosis, comparing and contrasting the possibilities
- Detailing important communication around risk, informed consent, and negotiation of management with the patient
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GPEP exam (GPEP1終了時の試験)
GPEP1が終わる時に、試験があります。
この試験は、もしも落ちてもGPEP 2年目(GPEP2)に進めるのですが、3回までしか受験できません。
11月にclinicalの試験があって、12月に筆記の試験があります。
1. Clinical Exam
私はGPトレーニングに関する試験/アセスメントのうち、このclinical examが最も難しいと思います。
10のステーション(部屋)があり、それぞれに試験官と患者さん役の役者さんがいます。
1ステーションに14分です。
7つのステーションでは、実際の理学的所見を取る必要はありません。
残りの3つのステーションでは、理学的所見の取り方もアセスメントの一部になっています。
この試験は合格率が70 - 85%。
理学的所見を取るステーションは、例えば肩が痛い患者、めまいの患者のように、診察技術と鑑別診断が重要な疾患など。
こういうのは勉強さえしていけばできるはずなので、あまり問題ないのです。
問題は、患者さんと話だけするステーション。
私が試験を受けた時も(私に取っては)難しいケースにあたり、終わったときにはもうダメだと思いました。
(試験を受けるにあたって、どんな症例であったかは口外しない、という書類に署名したらしいです。今いるレジストラに試験の症例について質問したら、そう言われました。
そのため、詳細はこのウェブサイトには書きませんが、医療関係者で勉強の一環として知りたい方がいらっしゃったら連絡してください。実際に日本で総合診療部の先生方とお話をするときには、質問があれば説明しようと思います。)
ニュージーランドのGP学会の書類に載っている症例の例としては
- ウイルス感染に抗生剤を要求する患者
- 不適当な病態に医師の診断書を要求する患者
- 慢性疾患の薬を処方通りに内服していない患者
- 初めて会う患者に癌の診断を告げる
- カジュアルな性交による妊娠、感染症(既婚者)
- 医師が患者として来た場合
- 怒っている患者
などです。
実際にはもっともっと難しい症例があります....
(試験が終わったときの私...)
2. 筆記試験
clinicの試験に較べ、筆記試験はそんなに大変ではありません。これはマークシート形式。
ただ正しい答えは1つとは限らないので、すごく簡単というわけではないのですが。
この筆記試験は合格率、毎年90%前後です。
GPEP 2年目−3年目(GPEP2-3)
後期研修の2年目からは、自分でGP 指導医がいるクリニックと交渉して、職を得る必要があります。
パートタイムの人でも、少なくとも週に丸2日はGeneral Practice のトレーニングをしないといけません。どれだけの時間/週 働くかによって、学会が何年GPEP2-3をしないといけないかを決めます。
基本的なトレーニングはGPEP1と変わらず、指導医やGP educatorのフィードバックを得て、自分でどの様な技術・知識が足りないかを考え、勉強のプランを立てる、ということになります。
毎週のセミナーは無くなります。
clinical audit とか ビデオレビューとか患者さんへのアンケートなどは同じですが、GPEP2-3でやらないといけないことの一つに
”academic component”
というのがあります。
これは、比較的最近導入されたものです。
最低150時間の学習時間がかかる大学のコース(論文を書くことも含まれる)や、学会と雑誌での研究発表をする、などの活動が要求されます。
実際には学会の書類にはこのように書かれています。
- 15+ point university papers in the discipline of general practice
- Other 15+ point tertiary education papers relevant to the GPEP curriculum
- Research-informed workplace and clinical initiatives
- Refereed journal papers and conference presentations
例えば、今うちのクリニックで働いているGPEP2レジストラはtravel medicineのコースを取っています。
(このtravel medicineのコースは15ポイントのコースが2つあり、両方とればある意味でtravel medicineの資格が取れるので、彼女は30ポイント分の勉強をしているそうです。
こういうコースはほとんどはオンラインで勉強できるのですが、数ヶ月に1回は他の都市にある大学に泊まりで講義を取りに行かないといけないので、他に家族がいない子持ちのGPレジストラには大変です。)
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GP Fellowship (専門医)アセスメント
自己学習、蘇生トレーニング、学術研究などの必要事項を全て満たすと、専門医になるためのアセスメントに申し込むことができます。
ペーパーワークを全て提出して、それが認められると、学会の検定医がクリニックに来て、診察やカルテ記載のチェック。色々なディスカッションをします。
これをパスすると、晴れてGP 専門医(Fellow)となれます。
フェローシップ(専門医)を取ることにどんな意味があるか
専門医を取る過程で、勉強することが一番の利点なのでしょうが、それは置いておくとします。
それ以外に現時点での一番の利点は、Special Authorityの申請ができること。
これは、政府の薬を取り扱う機関であるpharmacに、ある特定の薬に政府のfundingが欲しいときに、その申し込みが専門医でないとできないという理由によります。
例えばニキビの患者さんが来てisotretinoinを処方したい時、フェローシップを取得していないと、専門医を既にとった同僚に頼んで処方してもらわないといけません。
(ニュージーランドのシステムを知らない方には、理解し難いと思います。すみません。)
また、GPのフェローシップがない、またはフェローシップを取るプログラムに入っていないとニュージーランドでGPとして働けないようにする、というアイデアもあります。
ただ、ニュージーランドのように外国からバイトに来た医者に頼って街中の救急外来や僻地の医療を回しているようなところでは、そのような規制をすることで医師が足りなくなる、という事態が起こるので、なかなかそのようには行かないだろうと思います。
ニュージーランドのトレーニングシステムについてご質問がありましたら、いつでも問い合わせフォームから連絡ください。