(今回、学会発表で日本に行く際に、札幌の病院で研修医の方たちに話をする機会を得ました。今回の話はその際にしたかった話の一部なのですが、時間の予定で本当に私が話したいことは残念ながらカバーできません。でもこれからの医療を担う人には、あまり遅くならないうちに、こういうことを考えておいて欲しいなあと思っています。)
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日本とニュージーランドの診療システムの比較
以前の記事にも書きましたので、詳しくはこちらの記事を参照にしてください。
大体、大雑把にまとめると、下の図のようになっています。
日本では、患者さんがどの科に行くか自分で決めて(つまり、どの科の病気かある程度診断をつけて)、それぞれの科の開業医へ行きます。
ニュージーランドでは、どのような医学上の問題でも、自分のGPクリニックへ行くのが原則です。
開業医(日本)やGP(ニュージーランド)から、必要であれば、患者さんを次のレベルのケアへ紹介します。
日本とニュージーランドの診療報酬システムの比較
日本とニュージーランドでは、医療機関への報酬のシステムはかなり異なります。
日本のシステム
日本では基本的に『出来高払い』です。
クリニックは「初診料」「生活習慣病管理料」など、医師が行ったサービスをそれぞれ項目として挙げ、それぞれについて決まっている点数を合計し、健康保険協会などに、患者さんが払った残りの分の報酬を請求します。
ニュージーランドのシステム
ニュージーランドは『キャピテーション』というシステムを使っています。
患者さんがGPクリニックに登録すると、その人の年齢や収入により、政府から決まったお金がクリニックへ1年分として払われます。
例えば、45−64才の女性で、High User Health Cardを持っていない人(=1年に12回以上GPにかかることが普通はない人)がGPクリニックに登録すると、クリニックにはキャピテーションとして$146.6/年、政府からお金が払われます。(2019年現在)
例えば14歳以下の子供の場合は、患者さんはクリニックに診察料を払いませんので、その分政府からクリニックへのキャピテーションの金額は高くなっています。
GPクリニックは、このキャピテーションのお金と、患者さんが毎回診療時に払う診療費でやりくりしていく訳です。
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キャピテーションについて、更なる説明
『キャピテーション』というのは、日本の方には馴染みがないと思うので、もう少し説明します。
先ほど述べたように、患者さんの年齢、性別、収入、どれだけ医者にかかる必要があるかなどによって、その患者さんの1年あたりの医療費を大体予測して、政府がGPクリニックにお金を払う訳です。
基本のキャピテーション以外にも、慢性疾患がある、など患者さんの状況によっては、他にも政府からクリニックにお金が払われることもあります。(ただし、頻回に受診する患者さん全員に当てはまる訳ではありませんが。)
患者さんの受診回数とクリニックの収入のシュミレーション
キャピテーションシステムの場合、どのようにクリニックの収益が、患者さんの診療回数 /年によって変わるのかシュミレーションしたグラフをお見せします。
単純に、この患者さんのために政府がクリニックに払うキャピテーションは$140/年、患者さんが1回あたりの診察に払う診察料を$30とします。
クリニックでGPが患者さんを診察した場合、15分あたりのクリニックの経費は$75と見込まれています。(クリニックがGPや看護婦に払う給料、建物や器具のメインテナンスなどを含め)
来院回数が多くなってくると、どうでしょう。
だんだん、クリニックの収益が少なくなってくるのがわかります。
このシミュレーションでは、患者さんが年に4回以上GPの診察を受けると、この患者さんに関しては、GPクリニックは赤字になってきます。
もちろん、GPクリニックに登録しても、1年に1回も来ない患者さんもいます。
それでもクリニックはキャピテーションのお金を政府から受けられます。
反対に、年に4回以上受診する患者さんもたくさんいます。
例えば、毎週のようにGPにくる子供やお年寄り。
その人個人に関しては、GPクリニックの収入は損失になります。
結局、クリニックは登録した患者さん全員の分のキャピテーションと診療代を合計して初めて、赤字になるか黒字になるかがわかる訳です。
診療報酬システムが検査や治療に与える影響
このような報酬システムの違いは、医師がどのような検査や診療をするかに、かなり影響を与えると私は思います。
日本で起こりうる例
例えば日本では「生活習慣管理料」で血圧の管理をして処方箋を出すと、月に1回まで700点が請求できます。(1点10円なので、7000円。)
日本のシステムでは、クリニックが収入を上げようと思ったら、患者さんに1ヶ月に1回は診察にくるように指示して、毎回700点(=7000円)+再診料などを得る、と言うことも可能なのです。
(もちろん、すべての開業医がこのようにして、不必要に患者を受診させているということではありません。)
ニュージーランドで起こりうる例
ニュージーランドでは、生活習慣について説明しても、余分にGPクリニックに収入は入りません。
基本は15分の通常のコンサルテーションに対して、決まった受診料を設定しています。
上に述べたように、GPが患者さんを診れば診るほど、クリニックの収入は減りますし
落ち着いている血圧の管理であれば、毎回GPを受診してもらう必要もないので
GPは3ヶ月分の処方を出し、看護婦さんに患者さんをフォローアップしてもらう事が多いです。
つまり最初にGPが患者さんに、どのくらいの血圧を目指し、その根拠は何で、薬の副作用はこれこれで、といろいろ説明します。
また、どのように薬の量や種類を変えていき、どのくらいの血圧を目指すということを患者さんと看護婦さんに明確にします。
あとは看護婦さんなどにフォローアップしてもらい、必要であればGPが診察する、という形になります。
このようなシステムだと、
- 不要な診察や検査、投薬を減らす
- 患者さんを教育して医者にかからなくてもいいような病気(例えば風邪など)で受診することを減らす
- 患者さんの全体の健康状態を良くするように援助して、医者にかかる必要を少なくする
などを、医者が積極的に行うようになります。
このコメントについて、あなたはどう思いますか?
ある日本のオンライン雑誌(結構名の通った、多くの人が読んでいるもの)に、ある記者が、以下のような内容の記事を書いているのを読みました。
『日本人の平均の医師受診回数は、年に13回。スウェーデンでは3−4回。これは日本人がいかに医者を信頼して、身近に感じているかを示すものである』
(ちなみにスウェーデンは、ニュージーランドと似たような報酬システムのようです。)
あなたはこのコメントについてどう思いますか?
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最後に
日本、ニュージーランド、どちらのシステムにも良い点と悪い点があります。
ニュージーランドでGPをしていると
(日本のように、患者さんが必要な時にすぐに検査や手術が受けられたら良いなあ)と良く思います。
ただ、その反面、日本の医療には多分ニュージーランド以上に無駄が多い(=医療費の無駄遣い)と感じています。
私が興味深く感じたのは、それぞれの国のシステムの違いによって、医療そのものの様々なな要素が影響を受けているという点です。
個人的には、日本とニュージーランドのシステムが混ざったようなものが理想です。笑
また別の記事で、ニュージーランドと日本を較べ、いろいろと考えることを書いていきたいと思います。