はじめに
予防接種は、必要なワクチンを、必要な時期に受けられるようにスケジュールが立てられています。
ある感染性の病気に罹りやすい時期、または罹ると重篤な状態になりやすい時期をカバーするよう、そして十分な抗体ができるように、それぞれの疾患に対して、接種開始年齢と回数が決められています。
この決められた時期を逃さないように、ニュージーランドに長期滞在が決まっていれば、母子手帳を持ってかかりつけとなるGPクリニックを訪れ、必要な予防接種を、必要なタイミングで受けるようにしてくださいね。
最近は母子手帳に英語でどのワクチンの名前が書いてあるようなので、その場合は、母子手帳をGPクリニックへ持っていけば、それを参考にどの予防接種が必要なのかを教えてくれます。
もしも、お子さんの日本での予防接種の記録が日本語のみで書かれている場合は、この記事の最後に、GPクリニックでの説明に使える資料を添付しておきましたので、ご利用ください。
ご家族の赴任で、お子さんを連れてニュージーランドにいらっしゃった場合は、小学校へ進む時に、予防接種がニュージーランドのスケジュールに合わせて行われているかチェックされます。
早めにGPに記録を移して、必要な予防接種を受けておきましょう。
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日本とニュージーランドの予防接種の種類やスケジュールの比較
日本とニュージーランドの表にして比較してみました。
そのあとに、それぞれの予防接種について説明してあります。
定期 | と | 任意 | の予防接種です。 |
日本 | ニュージーランド | ||
1. インフルエンザ菌 | Haemophilus influenza | 4回 (2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、1歳) | 4回(6週、3ヶ月、5ヶ月、15ヶ月) |
2. 髄膜炎球菌 | Meningococcus B | どのワクチンの種類、子供の年齢で接種回数は異なる | 3回(3ヶ月、5ヶ月、12ヶ月) |
3. 肺炎球菌 | Pneumococcus | 4回 (2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、1歳) | 3回(6週、5ヶ月、12ヶ月) |
4. B型肝炎 | Hepatitis B | 3回(6週、3ヶ月、5ヶ月) | 3回(2ヶ月、3ヶ月、7ヶ月) |
5. ロタウイルス | Rotavirus | 2回 (2ヶ月、3ヶ月) | 2回 (6週、3ヶ月) |
6. DTaP-IPV | Diphtheria, tetanus, pertussis, polio | 4回 (2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、18ヶ月) | 4回(6週、3ヶ月、5ヶ月、4歳)+TDaP1回 (11歳) |
7. 麻疹・風疹(MR) | Measles, rubella | 2回 (12ヶ月、5−6歳) | 2回 (12ヶ月、15ヶ月) |
8. おたふく風邪 | Mumps | 2回 (12ヶ月、5−6歳) | 2回 (12ヶ月、15ヶ月) |
9. 水ぼうそう | Varicella (chickenpox) | 2回 (12ヶ月、18ヶ月) | 1回 (15ヶ月) |
10. ヒトパピローマウイルス | Human papilloma virus (HPV) | 3回 (13−14歳の間) | 2回 (12-13歳の間) |
11. 日本脳炎 | Japanese encephalitis | 2回 (3歳と9歳) | (旅行など特別な場合のみ) |
12. BCG | Tuberculosis | 1回 (11ヶ月までに) | (旅行など特別な場合のみ) |
それぞれの予防接種について
インフルエンザ菌 Haemophilus influenza
これは、インフルエンザ ウイルスとは違います。ヘモフィルス・インフルエンザという細菌です。日本でもニュージーランドと同じように"ヒブ Hib"と呼ばれているようです。
これに罹ると、髄膜炎や咽頭蓋炎を起こし、重篤な症状となります。
これに対する日本とニュージーランドの予防接種のスケジュールはほとんど同じなので、ニュージーランドへ移った際にまだ4回の予防接種が終わっていなければ、スケジュールに沿って残りの接種を行います。
髄膜炎球菌 Meningococcus
これは日本では任意接種、ニュージーランドでは近年予防接種のスケジュールに入れられました。(MenBと言うタイプBへのワクチンです。)
これは髄膜炎を起こす細菌で、流行時には若者に患者が多いことが特徴です。
短期間に、非常に重篤な病態になり、死に至る可能性も高い感染症です。
肺炎球菌 Pneumococcus
これは髄膜炎、敗血症、重篤な肺炎などを起こす細菌で、後遺症を起こす割合は、上記のインフルエンザ菌に比べ2倍ほどになります。(死亡率7-10%、後遺症率30-40%)
現在(2024年3月)ニュージーランドでは、日本と同じくPCV13という13種に対するものを使っています。
これもニュージーランドと日本のスケジュールは似ているので、ニュージーランドに移った時点でそのままスケジュールに従い、残りの接種を行うことになります。
B型肝炎 Hepatitis B
これは皆さんもよくご存知の病気だと思います。一回感染すると、感染が一生続き、肝がんを発症するリスクが上がります。
まれに劇症肝炎と言って、命取りになる激しい肝炎になることもあります。
これもニュージーランドと日本のスケジュールは似ているので、ニュージーランドに移った時点でそのままスケジュールに従い、残りの接種を行うことになります。
ロタウイルス Rota virus
これは経口のワクチンです。
日本では任意、ニュージーランドでは定期のワクチンになっています。
日本ではロタリックスという1価のものと、ロタテックという5価のものがあり、どちらかを選んで、ロタリックスなら2回、ロタテックなら3回接種します。
ニュージーランドで現在使われているのはロタリックスで、日本と似たスケジュールで2回接種になっています。
なんらかの理由で日本でロタウイルスのワクチンを接種し始めなかった場合、ニュージーランドで15週未満に最初のロタウイルスワクチンが接種できれば、スケジュールに従って接種を始めます。もしも15週未満に接種を開始できなければ、ロタウイルスの予防接種自体を行いません。
通常のニュージーランドでのスケジュールは6週と3ヶ月です。
遅れて接種を始めた場合、2回目の接種は1回目の4週間以降に受けることができます。
2回目の接種ができるのは25週未満なので、もしも日本で1回目の接種をしてあっても、何らかの理由で2回目の接種が25週までに行われなければ、25週以降には接種を受けられません。
日本でもしもロタテックで予防接種を始めた場合、もしも3回の接種を終わっていなければ、ニュージーランドでロタリックスをその時期によって1回、可能であれば2回接種します。
このようにロタウイルスのワクチンの接種が受けられる期間は短いので、ご注意ください。
DTaP−IPV ジフテリア・破傷風・百日ぜき ー ポリオ Diphtheria, Tenanus, Pertussis, Polio
ニュージーランドでは、これとB型肝炎とHibワクチンとが混合になったものが、まず3回接種され、4歳時に混合でないDTaP−IPVが接種されます。11歳時にポリオ以外の破傷風・ジフテリア・百日ぜきワクチンであるBoostrixがさらに接種されます。
日本では4回目の接種が1歳と2歳の間に行われるのに対し、ニュージーランドでは4歳で行われます。
そのため、日本で4回のDTaP-IPVを接種していれば、4歳時にニュージーランドで接種を受ける必要は無くなります。
ただポリオ以外のジフテリア、破傷風、百日ぜきに関しては、11歳で再度ブースターの予防接種があります。これはニュージーランドでは定期の予防接種です。
日本ではジフテリアと破傷風の混合ワクチンが11歳頃に任意接種となっていますが、定期のブースターはありません。
また、日本では2012年9月まで経口のポリオワクチンが使われていましたが、その後は注射のワクチンに変わりました。そのため、現時点(2018年)でニュージーランドに移住してくる日本の子供は皆、注射のポリオの予防接種になっていると思います。
麻疹・風疹 Measles, Rubella (MR)
ニュージーランドでも日本でも、1歳ごろと、小学校に上がる前の計2回の接種だったのですが、202年10月1日より、ニュージーランドでは12ヶ月と15ヶ月に変更されました。
もう一つの違いは、ニュージーランドでは MMR と言う、おたふく風邪のワクチンも含まれた混合ワクチンが接種されるのに対して、日本では麻疹・風疹だけの混合ワクチンであることです。
おたふく風邪
上に書いたように、ニュージーランドでは定期予防接種の一つですが、日本では任意となっています。
このため、もしも日本で1回か2回MRを接種してあっても、ニュージーランドでは風疹をカバーするために、さらに2回MMRを接種することになります。(ニュージーランドではおたふく風邪だけのためのワクチンは使われていません。)
水ぼうそう
日本では定期で2回となっていますが、ニュージーランドでは定期で1回です。
日本ですでに1回受けていれば、ニュージーランドでは接種されませんが、日本に帰る機会があり、まだ無料で2回目の予防接種が受けられる状態ならば、2回接種を受けることをお勧めします。
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ヒトパピローマウイルス Human Pipiloma virus
これは、子宮頸がんや咽頭がん、尖圭コンジローマなどの発生に関与するウイルスです。
これはニュージーランドでは定期予防接種に入っており、男女ともに12歳時に2回接種されます。ただし15歳以上から開始した接種を場合は3回接種になります。
2018年現在,
ニュージーランドでは9種類のパピローマウイルスをカバーするワクチンが使われています。
こちらの記事も参考にしてください。
日本では、12−13歳の女子を対象に2種類、または4種類のパピローマウイルスをカバーするワクチンが使われ、3回接種です。
現状では、定期だけれど任意と言う変な状況になっています。定期になっているけれど、他の定期予防接種のように積極的に勧められていないという意味です。
その理由はワクチンを始めた時に、副作用を訴える人が多かったことにあるようです。興味のある方は、こちらのページを参考にしてください。
日本脳炎 Japanese encephalitis
これは蚊を媒介にして、日本脳炎ウイルスに感染している豚や鳥から感染るもので、ほとんどのケースは無症状ですが、まれに脳炎を起こすと治療方法はなく重篤な状態になります。
日本国ないでも症例数そのものは年に10例以下ですが、日本脳炎に感染している豚が多いために、未だに定期の予防接種がされているようです。
ニュージーランドでは任意で、日本脳炎の頻度が高い国に渡航する場合などに考慮されます。
ニュージーランドでどれだけ日本脳炎の症例があるか調べてみましたが、データを見つけられませんでした。
結核 BCG Tuberculosis
これもニュージーランドでは任意で、結核の頻度が高い国に渡航する場合などに考慮されます。
日本では定期の予防接種となっています。
平成28年のデータでは、日本の結核患者数17,625人とのこと。
多くの先進国では定期のBCGは行なっていません。日本も症例数が減って、BCGを行う必要がなくなるといいですね。
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予防接種記録の英語版
下に、私が作った予防接種と感染症の既往の記録に使える書類のリンクを載せておきました。
こちらです。→ Vaccination and infectious disease certificate 予防接種証明書 英語版
これを印刷してご自分で記入、または医師に記入してもらい、医師の署名(とスタンプ)をもらってください。
もしも表記されていないワクチンがあったら、空いているスペースに書き込んでください。
ただ、どこかの学校や会社に提出するということでなければ、多分ニュージーランドのクリニックではあまり細かいことは言わないと思います。
そのため、この証明書に自分で記入し、これと日本の母子手帳を持参して、ニュージーランドのGPクリニックに持ってこれば、医師の署名がなくても問題なくこちらの記録に日本の情報を移してもらえると思います。(日本の医師の署名をもらう時間があれば、それをお勧めしますが。)
ロタウイルスのワクチンは、日本ではロタリックス Ratarix とロタテック RotaTeq ロタテックがあるので、どちらを接種したかわかれば、表の中の接種した方に丸をつけるか、使用しなかった方を消してください。
ヒトパピローマウイルスのワクチンも同じです。日本で現在使われているのはサーバリックス Cervarix かGardacil (4価のもの)です。現在日本でも、私費でGardacil 9 (9価のもの。現在ニュージーランドで使われているものと同じワクチン)を受けることも可能です。
もしもわかるなら(予防接種を受けた開業医に行けばわかります)、ロタウイルスのワクチンと同じように、どのワクチンを受けたかわかるようにしておいてください。
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まとめ
以下に、日本からニュージーランドに来た時に知っておくべき、主な予防接種の違いをまとめておきます。
- 日本でMR (麻疹と風疹のワクチン)を2回受けてきた場合でも、ニュージーランドでさらに、麻疹・風疹を含むおたふく風邪の混合ワクチンの接種を2回受けることになります。
- もしも15週齢未満でニュージーランドに移住すれば、ロタウイルスのワクチンも接種されます。
- 11歳以降にニュージーランドに移住した場合は、ジフテリア・破傷風・百日ぜきのブースターとパピローマウイルスの予防接種のキャッチアップが必要となります。
元気なお子さんでも、一度かかりつけのGPクリニックを訪れて、予防接種についてニュージーランで必要なものはないかを確認していただけると良いと思います。
(ワクチンの接種スケジュールは時々変更になります。この記事のスケジュールが必ず最新でない可能性はあるので、GPクリニックで確認してくださいね。)