今回は2020年10月の選挙時に、同時に行われる国民投票の1つ、
『大麻の合法化とコントロール Cannabis legalisation and controlに関する国民投票』についての記事です。
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ニュージーランドでのcannabis 大麻マリファナ使用の現状
Cannabis (大麻・マリファナ) の使用、売買、栽培は、ニュージーランドでは (日本と同じく)現在(2020年10月)のところ違法です。
ただ、ニュージーランドが日本と違うのは、違法でも大麻が日常的に使われている事。
このNZ drug foundationによるState of the Nation 2019によると、2018年の調査で33万4千人の大人が, 定期的に大麻を吸っている、ということでした。(2018年のニュージーランドの子供を含めた総人口は488万でした。)
この調査では15-24歳の男性の大麻使用率が最も高く、対象者のほぼ25%がこの1ヶ月間に大麻を使ったと答えています。(15歳以上の人全体では調査者の8.5%が常用していました。)
実際に、クリニックに来る患者さんに話を聞くと(GPとして、喫煙や飲酒歴を訊く時に、大麻やmethamphetamineなどのドラッグの使用についても質問しています)多くの人が定期的に、または時々大麻を使用していることを認めるので、このNZ drug foundationの調査の数値は、現実を反映したものだと思われます。
(患者さんが大麻を使っていることを医師に言っても、大麻使用が、その時点で患者さんの命の安全や周りの人の命の安全に関わる、ということでなければ、医師は警察に通報したりはしません。)
この国民投票について、医師の私が賛否を決めるのに最も重要な点としているのは、
大麻の合法化によって、健康の害を受ける人が増えるか、減るか、と言う点。
もちろん、国民投票に対する興味の焦点は、投票者の置かれた状況によって異なります。
例えば、慢性疼痛に苦しんでいる人は「自分の痛みに効くかもしれないので、大麻を使いたい」と考え、大麻の合法化に賛成するかもしれません。
(現在、既に医療用の大麻はニュージーランドでは合法ですが、かなり高価な薬です。)
投票者がギャングのメンバーなら、収入源である大麻が合法になってしまうのは、あまり好ましくないので、反対するかもしれません。
政府関係者の視点からすると、大麻の販売に関して税金収入が増えるのと、大麻に関する逮捕、投獄などが激減する分、出費が節約できるので、賛成に投票するかもしれません。
警察関係者なら、大麻の所持や使用している人を逮捕をする時間と労力が減るのは利点でしょう。
私が迷う要因は
私が一番迷う要因になっているのは
1. 今回の国民投票はnon-binding、つまり過半数票がYesに入っても、今年選ばれる政府が法案にするかどうか決定し、そこから法律になる。
そのため、現在の案として出されている内容が最終的にどれだけ変わるかが不明確。
2. 外国での合法化された事例を用いて、賛成派、反対派共に今後のニュージーランドでの状況の予想としているが、人口や文化の違うニュージーランドで他の国のデータがどれだけ参考になるか予測がつかない。
3. 大麻の規制に対する現状がうまく行っていないことは明らかなので、なんらかの変化が必要。だからと言って、大麻をこの国民投票で歌われている方法で合法化するのがベストだとは思えない。
以上です。
参考資料
『大麻の合法化とコントロール』に関する国民投票の概要は、政府のウェブサイトに書いてあります。
中立の立場で、色々な参考となる資料を取りまとめた『首相のChief Science Advisor』の大麻に関するページは、ご自分で現時点で参考になる資料を読んでみたい人にはぴったりです。
賛成派の意見を見てみたい方はNew Zealand Drug Foundationのサイト
反対派の意見を見てみたい方はSmart Approaches to Marijuana (NZ)のサイトを覗いてみてください。
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『大麻の合法化とコントロールに関する国民投票』Q & A
今回も、まずこの国民投票で取り扱われる内容について、Q & A 形式で見ていきましょう。
Q. この国民投票で過半数票が賛成に入れられたら、大麻が合法になるんですか?
『安楽死』の国民投票と違い、この『大麻』の国民投票はnon-binding (indicativeとも呼ばれる)国民投票です。そのため賛成が過半数票であっても、大麻を合法化する法律がすぐに有効になる訳ではありません。
過半数票が賛成に入れられたら、2020年10月の選挙で選ばれる政府によって『大麻を合法化する』法律を作るかが決定されます。
Labour partyとGreen partyは、もしも国民投票で過半数が賛成票であれば、『大麻』の法を通す事に積極的な態度をとっています。
反対に、National partyとNZ First partyは、国民投票で過半数の賛成票を得ても、最終的には専門家の委員会の意見に従う、と言う態度です。
つまり、National やNZ firstが与党になれば、大麻が合法化しない可能性があります。
Q. 『大麻』が合法化される法律の目的は何ですか?
目的は、大麻が合法化され、政府がコントロールできれば、下記の理由のため大麻に関連した個人、家族、コミュニティへの弊害を減らせるため、とされています。
- 定められた品質と効力を持つ合法的な大麻が手に入れられる様にする(クオリティコントロールされた大麻が提供される)
- 不法な大麻の供給を無くす(ギャングやブラックマーケットに頼る事なく、大麻を入手できる)
- 大麻の使用に関連する健康リスクの認識を高める
- 大麻への若者のアクセスを制限する
- 大麻の公共の可視性を制限する
- 梱包時および購入時に健康警告を要求する
- 健康と社会サービスへのアクセスの改善、および家族に対する他の種類のサポート
- 法律違反への対応が公正であることを確認する
その他にも(政府のウェブサイトには書かれていませんが)大麻の値段にはタバコやお酒のように税金が加算されるので、国の税金収入が増える、という利点もあります。(後述)
また、大麻に関して逮捕され、刑務所に入れられる人が減るので、国民の税金を節約できる、という利点も指摘されています。(これも後述)
Q. 実際に賛成、または反対の国民投票をする内容について教えてください
まず、この法案がそのままの内容で通ると、人々が大麻を所有して、使用する事が、ある決まった状況で合法化されると言う事になります。
20歳以上の人は、以下の事が合法的に許可されます。
- 認可を受けた販売店からのみ、1日あたり最大14グラムの乾燥大麻(または同等品)を購入する
- 大麻が販売または消費されている認可された施設に入る
- 私有地または認可された施設で大麻を消費する
- 大麻の苗を1人が2本まで、1世帯では最大4本まで育てられる
- 14グラムまでの乾燥大麻(または同等品)を20歳以上の別の人と共有します。
大麻の製造と供給に関しては、次のようなコントロールがされます。
- 販売用に認可された大麻の総量を制限する
- ライセンスされた大麻と大麻製品の効力と内容の管理
- 製品がパッケージ化され、販売用のラベルが付けられたときに消費税を適用する
- 大麻関連のすべての企業がライセンスを保持する必要がある、ライセンスシステムのセットアップ
- 地域社会と相談して、大麻が販売または消費される施設の場所と取引時間を規制する
- 大麻の輸入を禁止し、認可された企業のみに大麻種子の輸入を許可する
- 大麻の栽培および大麻製品の生産が許可されている事業と、大麻の販売および消費が可能な施設の運営が許可されている事業とを区別すること。
もう少し詳しい情報が知りたい方はこのページを参照してください。
Q. 20歳未満の人が大麻を持ったり、使っているのが見つかったらどうなるのですか?
その場合は、その人は大麻に関する講習を受けたり、社会、健康の分野からのインプットを受ける(多分、カウンセラーやソーシャルワーカーなどでしょうか)ことになります。
少額の罰金を支払うことになるかも知れませんが、有罪として罪を問われることにはなりません。
ここが、賛成派の最も強調する点の1つです。
大麻が合法化されれば、若気の至りで大麻を使い警察に見つかっても、犯罪歴がつかないため、
その後の就職などに差支えが出ない、となる訳です。
ただ、『20歳未満の人に大麻を与えたり、売ったりしたら違法』とあるので、20歳位未満の人に大麻を与えた大人は、有罪になる様です。(この辺りは、最終的に法律になった時にどうなるのか、現時点ではよくわかりません。
私が読んだNZ heraldの記事によると「20歳未満の人に大麻を売った時は、ビジネスなら$150,000までの罰金、個人が売った場合4年の刑務所入り」と言うことです。)
賛成派と反対派の言い分
ここからは、『大麻の合法化』に関しての賛成派と反対派の言い分(と私の意見)をQ & A で書いていきます。
Q. アルコール(お酒)に比べたら、大麻の害なんて大した事ない、って聞きましたが...
他の薬物と比較して、アルコールがニュージーランドで1番問題を起こす薬物であることは明らかです。
アルコールでも大麻でも、少量に抑え、常用しなければ大きな問題に繋がることはないでしょう。
そう言う意味では「アルコールは完全に合法なのに、なぜ大麻は違法なのか」と言う人たちの気持ちはよくわかります。
問題は、主にメンタルヘルスが不健康な状態の人が、精神面を一時的にコントロールするためにアルコールや大麻を取り、そのまま量が増えていったり、毎日摂取しないとやっていけなくなった時です。
大麻が少量では問題ないといっても、大麻を使い始めたら、『絶対少量しか取らない』と言う確信は誰も持てないでしょう。
ちょうどアルコールが原因で人生を棒に振った人がたくさんいる様に、
大麻のために人生を棒に振った人もいます。
私の考えは、『アルコールがいいなら、大麻もいいでしょ』ではなく、
『大麻がアルコールの様に害を及ぼす事がわかっているなら、使わない』です。
Q. 大麻が違法でなくなれば、大麻の依存症を治療したいと言う人が、医師や他のリハビリサービスにかかりやすくなるのでは?
現在でも、大麻をやめたい人はGPや薬物依存症の精神科にかかれます。
患者さんが、医師に大麻を使っている事を話しても、医師から警察に連絡はしないので、これで警察に捕まることはありません。
(警察に捕まるのは、家で大麻を育てているのを警察に見つかった時、また大麻を持っているか、使っている現行犯、特に他人に売っていると思われる多量の大麻を所持している場合が主だと思います。)
なので、大麻を合法化した事で、今まで医師や精神科に警察に捕まる事を恐れてサポートを求めなかった人が、どれだけ合法化の後で来る様になるか、私には疑問です。
『子供達への大麻に関する教育もやりやすくなる』というのも、私には理解できません。
既に、子供達が大麻を使っている事が明らかなのですから、大麻が違法である現在でも、もっと学校や家庭で大麻の問題を扱えば良いだけだと思うのですが。
Q. 大麻を合法化したら、多額の税金が国に入るし、警察が逮捕や拘留、裁判に使っていたお金を節約できるから、金銭的にはメリットが非常に大きいのでは?
この金銭的なメリット(特に税金からの収入)が、一番ポジティブな点だと私は思います。
2018年には約4000人が大麻に関する罪を問われ、3000人強が有罪になりました。
大麻に関して逮捕された人を留置所に入れておくのに、1年で約1千万ドル(7億円強)かかるので、これが節約できるらしいです。
ただ、違法なのに大麻を使うから逮捕されるのです。
大麻を使わなければ逮捕されないと言うことがわかっているのに、「みんなが大麻やっていて、こんな事ぐらいで逮捕していたらお金がかかるから、合法化しましょう」と言うのは、私は腑に落ちません。
また、大麻の合法化により、メンタルヘルスに問題が出た人への医療費や、大麻の影響下で犯罪を犯す人を逮捕したり、裁判にかけたり、リハビリするのに政府が費やさないといけないお金がどのくらいになるのかは、わかりません。
税金収入に関しては、大麻の販売を政府がコントロールする事によって、政府に入る税金は$5億ドルくらいか、もっと多いだろう、と言われており、賛成派はこの収入を大麻に関する教育やメンタルヘルスの使える、と強調しています。
この額も、政府が大麻にどのくらいの税金をかけるか、またどのくらいの人が合法化した大麻を使い(=代金に含まれている税金を払い)、どのくらいの人がブラックマーケットから買うか、によって左右されます。
大麻の合法化が経済に与える影響に興味がある方は、このNew Zealand Institue of Economic Researchのレポートに詳しく書いてあります。
Q. 大麻を少量使ったり育てていただけで、犯罪人の前科がつくのは納得できません
少量の大麻の害が少ない事を考えると、そう言う人の気持ちもわかります。
ただ、私の個人的意見は「違法の物(大麻)を使って前科がついた人は、自分の選択により予想された結果になったということ」なので、これを理由に「法律を変えるべきだ」と言うのには反対です。
Q. 大麻を合法化すれば、今までギャングの資金源となっていたものがなくなり、ギャングにとって大打撃になるのでは?
これは、合法的に買える大麻の値段によりますよね。
ブラックマーケットの方が安ければ、そちらで買う人はいなくならないでしょう。
また、20歳未満の人は、合法的には買えないので、こういう人たちはまだブラックマーケットを使うでしょう。
勿論、ギャングだってただ収入源が減るのを指をくわえて見ていることはないでしょうから、もっとハードなドラッグ(メタンフェタミンなど)に力を注ぐかもしれません。
最終的に、大麻の合法化がどれだけギャングに打撃を与えるのかは、予測できません。
Q. 大麻が合法化されたら、もっと多くの人が使うようになって、大麻関係の色々なメンタルヘルスの問題が増えるんじゃないの?特に若い人たちが心配です。
これが私の懸念の一つです。
実際にアメリカの大麻が合法化されている州ではティーンエイジャーの大麻依存率が上昇した、という報告があります。
この国民投票での案が最終的に法律として通っても、ティーンエイジャーは合法的に大麻を買えません。
ただ、大人が簡単に大麻を買えたり、家で栽培できる様になれば、さらにティーンエイジャーが大麻を手に入れる敷居が下がる可能性もあります。
現在15歳の私の娘が言うには、高校の友達で大麻を使ったことがある人は稀ではないとの事。
ニュージーランド人の夫に訊いてみると、大麻を使う大人がいるパーティーで勧められたり、大麻を使っている高校生が友達に分けたりと言う感じで、かなり手軽に大麻が手に入るらしいです。
大麻は、特に発達中の脳に良くない影響を与え、うつ病・不安症・パニックアタックに繋がります。
大麻合法化の後で、人々の使用率が最終的に減ったと言う報告をする国もあるので「合法化の後、ニュージーランドでの大麻使用率がどうなるかわからない」と言うのが正直なところだと思います。
個人的には、減ることはないと思います。
Q. 大麻を吸った後や吸いながらの車の運転、仕事中の大麻の使用などによる安全の心配はないのか?
この辺りの規制がどうなるのか、現時点で十分な情報がありません。
スクールバスの運転手さんが仕事中に大麻を吸っていたら、子供たちをそのバスには載せたくないでしょう。
勿論、大麻の影響を受けた人が車を運転する事自体、私は反対です。
(ただ、ニュージーランドにはメタンフェタミンを使いながら仕事している長距離トラック運転手がざらにいるそうです。)
飲酒運転の取り締まりができる様に、大麻の影響下での取り締まりをすることができる様になるのでしょうか。
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終わりに
色々な大麻の合法化の情報やそれに沿った予測があるのですが、実際大麻が合法化された後、ニュージーラン国民に起こる変化の予測が不明瞭すぎて「賛成するか、反対するかを決めがたい」と言うのが私の感想です。
私の信念に「上手く行っていないことは、何かを変えないといけない」というものがあります。
それに従い「大麻が違法でも、子供達まで大麻を吸っている、という現状を変えるには、何かを変えないといけない」と言う強い気持ちがあります。
ただそれがこの国民投票を通す事なのか。他に良い方法はないのか、と迷います。
また、タバコをやめるサポートのために、多くの時間と労力を使っている医療従事者として、
アルコール依存で仕事を続けられない患者さんを助ける努力をしても、アルコールを止めた後また依存に戻ってしまうのを目の当たりにしている医師として、
わざわざ、パンドラの箱を開けて大麻を合法化する事が良い事になのか。
この国民投票には、多分私は反対の投票をする事になると思います。
私の記事は「反対寄り」の物だと自覚していますが、少しでも皆さんの考えをまとめる助けになったら幸いです。