最近、日本にいる人から2023年問題について聞きました。多分この記事を読んでいらっしゃる方なら、お聞きになったことがあるかと思います。
これは2010年にEducational Commission For Foreign Medical Graduates (ECFMG)というアメリカの組織が、「2023年までにWorld Federation for Medical Education(WFME)の国際基準の認証を受けていない医学部 の卒業生には2023年以降、ECFMGの受験を認めない」と宣言したことに端を発します。
その後で、日本の医学部では大きな医学教育制度の改革が始まり、私が少し調べた中でも、琉球大学はすでにその認証を受けたようです。
他の大学でも2023年までに多くが認証される可能性が高いと思われますので、アメリカで働きたい医学生や医師の方が、そんなに絶望的になる必要はないでしょう。
ただ、これに伴うパニックで、アメリカ以外の国へ行って医師になる可能性を考え始めた方も多いのではと思います。
英語を使える国として、ニュージーランドを考えられた方が、検索してこのページにたどり着かれたのかもしれません。
今回は、真剣にニュージーランドの医師資格を目指している方に、2018年末時点での現状をお伝えしようと思います。
あまり楽観的になれない状況ですが、それだからこそ、真剣に考えている方には知っておいていただきたいと思います。
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ニュージーランドで働く海外医学部卒の医師たち
ニュージーランドでは 外国の医学部を卒業した医師International Medical Graduate (IMG)の占める割合が40%余りです。(NZ medical councilのレポートによる。)
つまり医師5人に2人は、外国の医学部を卒業した医師ということです。日本にいるとちょっと想像できない図ですよね。
このIMGの中にはNZREXを受けてニュージーランドの医師資格を取得した医師も、Specialistとして各専門科のアセスメントを経て(NZREXを受ける必要なく)その科のSpecialistの職を得た医師も両方含まれています。
これを見ると、私達のようなIMGがニュージーランドで医師の職を得られる可能性が高いのではないかと思われがちですが、必ずしもそうではないのです。
外国の医学部卒の医師が多い理由
これほど外国からの医師が多い理由の一つとしては、ニュージーランドの医学部の卒業生が外国へ出て行ってしまう、と言う問題があるようです。
2011年にNZ medical council が出した”Doctors leaving New Zealand : analysis of online survey results”というレポートによると
The most common reasons identified were:
- undertaking further training
- increased remuneration
- family reasons
- improved working conditions
- locum opportunities
(この中にはIMGの医師も含まれています。つまり、なんらかの試験やアセスメントを経てニュージーランドの医師資格を取った医師たちも、結局ニュージーランドを離れていく人がかなりいるということです)
上記のレポートにあるように、専門課程に行く前のGeneral registrationを持つ医師達は、さらにトレーニングを受けるために海外へ行き(ということはニュージーランドのトレーニングでは満足でないということ)、専門課程のトレーニングを終えて、specialistになったvocational registrationを持つ医師は、”さらなるトレーニングのため”に加え”収入のもっと良いところへ行く”と言う理由が多かったとのことでした。
(GPの私から見ると、病院のSpecialistは結構いい給料をもらって、たくさん有給もあって恵まれているなあと思うのですが、それでも他の国に行くと、もっと給料が高いようです。)
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NZREX受験までのタイムラグ
別の記事で述べたように、NZREXの受験資格の中に、USMLE step1と step2 CKの合格とIELTSが一定のスコア以上である必要があります。(他の試験で代用することもできますのでNZ Medical councilのウェブサイトを参考にしてください。)
USMLEの合格は5年まで有効です。ということは5年を超えたら、再度USMLE(または他の代わりとなる試験)を受け直さないといけないということです。
IELTSの結果は2年間有効です。もしもNZREXを受験して落ちて、次のNZREXの受験が、この2年の有効期限を超えたらどうなるか。
これについては、落ちたNZREXの試験の後に、ずっと英語が第一言語である国(ニュージーランド、オールトラリア、イギリス、アメリカ、アイルランド、南アフリカ、英語圏のカナダに限る)に住んでいた場合、有効期限が5年まで伸びます。
もしも日本で働いていて、NZREXを受けにニュージーランドに行き、合格しなかったのでその後日本の仕事に戻った場合、次のNZREXの試験日がIETLSのテストから2年を超えたら、またIELTSか代替の試験を受けないといけないということです。
NZREXは現在のところ一年に4回オークランドで行われます。
一回に受験できる人の数が28人以内に限られており、現在のところ次に空きがあるのは1年後です。こちらのMedical Councilのサイトに情報がアップデートされると思うので、参照してください。
NZREXの申し込み時には、USMLE step1と step2CKを合格し、IELTSも十分な点数であることを証明しないといけないわけですから、NZREXも早めに申し込んでおいて、というわけにはいきません。
では努力の甲斐があり、NZREXに通ったとしましょう。
次にも難関が待ち受けています。
House surgeonのポスト不足
NZREXを合格した外国人医師は、NZの医学部卒業生と同様にpost graduate year 1 (PGY1)のhouse surgeonとしての職を見つけ、probational registration (仮免許)を所持して2年間働き、十分な能力があると認められたところで、General registrationを与えられます。
今のところ、医学部の新卒やNZREX合格者はこのステップを取らずにgeneral registrationを取ることはできません。
次の難関というのは、NZREXを合格した後、このhouse surgeonの職を得る段階です。
現在ニュージーランドにはAuckland大学と Otago大学の2つの医学部があります。(3つ目の医学部を作る計画はあるようですが、まだ決定してはいないようです。)
この二つの医学部を合わせた毎年の卒業生の数は450−500人程度です。
最近のNZREXの合格率は50%程度なので、一年に50人余りのNZREX合格者が出るということです。
これだけを合わせても500人以上house surgeonの職がないと、全員がすぐに働き始めることができないということです。
これに加えてオーストラリアの医学部新卒者も、ニュージーランドの新卒と同じようにここでhouse surgeonの職に申し込むことができます。
(ニュージーランドの新卒者の中には、すぐ他の国に行く人もおり、全員がニュージーランドでのPGY1の職を探すわけではないと思われますが、大半はgeneral registrationが取れるまではニュージーランドにいるのではないかと思います。)
では実際にどれほど、このPGY1の職があるのでしょうか。
たまたまこの様なNZ政府のウェブサイトを見つけました。質問をすると、政府が調べて回答をしてくれるという便利なサイトです。
この中で、このような質問を見つけました。多分質問者はニュージーランドでの医師資格取得を考えているのでしょう。
I would like to know the precise numbers for the following
- Total number of graduates coming out from New Zealand medical universities each year for 2013,2014,2015 & 2016.
- Total number of PGY1 positions available across New Zealand DHBs.
それに対する政府の答え(抜粋してあります)が
- Data from Universities (Auckland and Otago) - Year 2013 2014 2015 2016
Total number of graduates coming out from New Zealand 439 436 441 508
medical universities including international students
- There are 470 PGY1 positions available within DHBs at the end of Nov 2016
intake
なんと2016年の数字を見ると、NZの医学部新卒が508人なのに対し、PGY1のポストは470しかないのです。
次のNZ Heraldの記事 " Overseas-trained doctors complain to Huma Rights Commission over lack of jobs" を読んでいただくと、いろいろな問題点が浮き彫りにされていてわかりやすいと思います。
この記事にあるように、PGY1のポストの数が少ないことにさらに輪をかけ、NZREX合格者はニュージーランドの医学部新卒者と同じACEというマッチングプログラムに入れません。(オーストラリアの新卒者はACEに登録できます)
また、NZ新卒者を採用すると、DHBはトレーニングの補助として政府からお金がもらえる様です。NZREX合格者に対してはこれがないため、もちろんDHBとしては、ニュージーランドをよく知っていて、英語でコミュニケーションすることに全く問題ないNZ医学部の新卒者を優先して採用する訳です。
その他にもこの様な記事を見つけました。
NZREX合格後、5年以内に職を見つけられなかったらその資格は無効になってしまいます。散々努力し時間とお金を費やしNZREXに合格した後に、別の職に就かざるを得なくなるということが、実際に起こっています。
実際に2019年現在、NZMCのウェブサイトに次のような記載がされています。
どうしてもニュージーランドで働きたいと言う方は、現状ではNZREX経由を避けることを考えた方がいいかもしれません。
他の道としては、
- 日本で何かの専門医になり、そこからニュージーランドで専門医となる道を探るか
- 別の英語圏で専門家の資格を取り、そこから専門医としてニュージーランドで職を見つけるか
こちらが、日本で専門家の資格を持った人がいけそうなパスウェイのリンクです。
興味がある人は、ご自分の資格をチェックしてみてください。
(多分、まず働く先の候補を選んで、自分を取ってくれそうかチェックしてからいろいろ進めるとスムーズに行くかもしれません。)
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最後に
医師不足が叫ばれ、海外からの医師に頼っているニュージーランド。
それでも、ここではNZREXを受験する外国人医師を非常に冷遇しています。
ニュージーランド政府は、もっとPGY1のポストを作るか、異なったパスウェイでgeneral registrationを取れる様にするなど、何かの方策を考えて欲しいところです。
私が言うまでもありませんが、ニュージーランドでのNZREX受験者をめぐる状況が改善されるまでは、いろいろと他の選択肢も深く考慮して、決断をすることをお勧めします。
私はこちらで働くのを楽しんでいますし、もっと日本から優れた医師の方がいらっしゃってニュージーランドの医療を充実させられれば素晴らしい事だと思います。