2020年8月まで、ニュージーランド内では、一般の住民の中での新型コロナウイルスcovid-19感染者は100日以上皆無でした。
残念なことに、2020年8月11日に、帰国者などとの関連が見られない、covid-19検査陽性者(家族)が報告され、『国からcovid-19を排除した状態』を維持できませんでした。
今回2020年8月にcovid-19検査陽性例が発覚した時点で、ニュージーランド政府は検査陽性の家族が在住するオークランド地域をalert level 3 (完全なロックダウンはlevel4)、その他の地域をlevel2にしました。今回の感染者が、第2波に繋がることなく早めに収束してくれることを願っています。
ニュージーランドで2020年4月、新型コロナウイルスcovid-19のコントロールに成功した要因
ニュージーランドで2020年4月新型コロナウイルスcovid-19のコントロールに成功した一番の要因は、ニュージーランド政府が非常に早期に、国境を閉じ、国中の完全なロックダウンを敢行したことに尽きます。
また、人口の少ない島国である事が有利な条件であることも間違いありません。
これらを含めた、ニュージーランドが2020年4月にコロナウイルスをコントロールできた要因をまとめてみました。
もともとあったニュージーランドの有利な点
ニュージーランドにはもともと、covid-19ような感染症の広がりを抑えるのに有利な点があります。
ニュージーランドの人口密度が低いこと
ニュージーランドの人口は500万人強。日本の人口は1億2600万人。
国土の大きさはニュージーランドは日本の3/4程度なので、人口密度としてはかなり低いです。
ニュージーランドは島国であること
島国であるために、国境での入国者のチェックは容易になります。
ニュージーランドには4つの国際空港がありますが、現時点ではオークランド空港のみが入国ポイントとなっているようです。
基本的には、まだニュージーランドの国境は閉められていて、入国できるのは原則的にはニュージーランドの国民と永住権保持者です。
*詳しくはこちらのニュージーランド政府のウェブサイトを参照。
ニュージーランドに公共交通機関が発達していないこと
人口が少ないことに関連していますが、ニュージーランドではほとんどの日常の移動は個人の自動車で行われます。
公共のバスも、日本ほどの満員になることは少ないです。地下鉄はありませんし。
ニュージーランドの医療システムの構造が日本などの国に比べ、シンプルである事
ニュージーランドでは、医療がプライマリーケアとセカンダリーケアが、かなり明確に分かれています。
もちろん、ニュージーランドと同じようなシステムのオーストラリアやイギリス、日本と同じような構造の韓国で、それぞれcovidのコントロールに関しては異なる状況になっているので、この4番目の要素はそれほど重要ではないかもしれません。
ただ実際に日本とニュージーランドで働いた自分の経験を鑑みると、このニュージーランドの構造は、政府からのメッセージをそれぞれのレベルの医療機関に伝わるのを容易にしたのでは、と感じます。
ニュージーランドの対応が良かった点
ニュージーランドがcovid-19をコントロールできたもっとも重要な要因は、ニュージーランド政府の初期の対応や、それに従った医療従事者/機関の対応です。
早期に政府がロックダウンに踏切り、徹底したこと
これがニュージーランドがcovid-19コントロールに成功した1番の要因でしょう。
政府がロックダウンの予定を発表したのが、確か2020年の3月20日の金曜日。
国境もこの日に閉じられました(正確には3月19日の夜11時59分)。
この時点で、ニュージーランドでのcovid-19症例は国内で50例を超えたところで、死亡例はまだ出ていない段階でした。ただ毎日の報告される症例が1日ごとに前日から倍増しているという状況でした。
翌日の3月21日にalert level 2が始まり、 3月23日(月)からalert level 3、 3月25日(水)にalert level 4、つまりロックダウンが始まりました。
*ニュージーランドのalert level の詳細については、こちらを参照
この時点で、ニュージーランドでnational state of emergency 国内緊急事態宣言が出ました。(2020年5月13日に解除されました。)
政府からは、それぞれのレベルでどんなことが許されるか(外出、学校、仕事、集会などそれぞれについて)の説明がありました。
ロックダウンするという方針を政府が発表後、ロックダウンに入るまで1週間もありませんでしたが、徐々にalert levelが上がり、ある程度人々がロックダウン前に準備ができるような期間が与えられました。
ロックダウン中に営業できるビジネスに関しては、ロックダウン直前に政府が、どのビジネスが人々の日常生活に絶対必要なビジネス(*essential business)であるかどうか、という決定があり、その他のビジネスは営業が許されませんでした。
*essential businessの例は、例えばGPクリニックや薬局、公立病院、スーパーマーケットです。
スーパーマーケットやGPクリニック、薬局では、social distancing を徹底。
例えば、スーパーの外には人が2メートルの距離を置いて待ち、中に入れる人数を制限。
GPのクリニックでは80パーセントは電話かビデオによる診察になりました。
待合室を使わず、クリニックに来ないといけない人は、それぞれの車の中で待つ、という形になりました。
日本のように「不要不急の外出を控えるように」と言っていても、日本政府が強制的にビジネスを閉めさせるという事をせず、個人に最終決定を委ねる、という形とはかなり違いました。
多くの国民が政府の決定に協力したこと
私は、法律や経済のことには詳しくないのですが、ニュージーランドが出した国内緊急事態宣言というのは、ロックダウンの政府の方針に従わない人を警察が逮捕できる権限を与えたようです。
ニュージーランドでロックダウン中にパーティをした人達が逮捕された、というニュースを聞きました。しかし、ロックダウンに従わない人が感染を広めるという問題にはなりませんでした。
もちろん逮捕されるのを避けるためもあると思いますが、ニュージーランドでは、多くの人が政府の決定に従って、外出を避けました。
ただ、今回2020年8月の新規症例の発覚後は、ニュージーランド各地で、ロックダウン反対の動きが出ている様です。
この先、alert level 4 (=ロックダウン)に再突入することになったら、どうなるでしょうか。
政府のロックダウンの導入決定後、GPの学会が全国のGPに指示を出し、医療機関が協力したこと
私のブログ記事を読まれた方はご存知だと思いますが、ニュージーランドではGPが主なプライマリーケアを担当するので、患者さんが最初に受診するのはGPです。
(病院は、ニュージーランドではセカンダリーケアであり、救急外来以外は基本的にはGPの紹介なしでは受診できません。)
つまり、GP達が最前線になる訳です。
政府がロックダウンの予定を発表したのが、確か2020年の3月20日の金曜日で、翌週にはalert levelが4までだんだん上がっていくという予定も発表されました。
翌日の2020年の3月21日、土曜日にalert levelが2となりました。
この日にGPの学会から、『週末明けの3月23日月曜日から、GPの診察は80%はバーチャルにするように』という御達しが出ました。
ほとんどのGPクリニックは週末営業していませんから、週末中に週明けについて用意をする事はほとんどできません。
そこで3月23日、月曜の朝、ニュージーランド中のGPクリニックが、予約してある患者さんに連絡して、出来るだけバーチャルな診察に切り替え、クリニックに来る必要がある人は、待合室を使わずに、車やクリニックの入り口の外に待機してもらうなど、大幅な診療スタイルの変化に対応しないといけませんでした。
他にも
- covid-19の疑いがある症状のある人を、クリニック内外の、他の患者さんとは違う場所で診察する
- GPクリニックのGP、看護婦などをチームに分け、勤務日を変えるなどして、もしもスタッフがcovidに感染した場合、クリニック全体を閉鎖しなくても良いようにする
など、それぞれのクリニックができる範囲でスタッフと、患者さんのリスクを減らすように努力しました。
政府のcontact tracing
『covid-19の検査で陽性になった人』、または『感染者との接触歴と症状からcovid-19の感染がとても感染が疑わしいけれど、covid-19の検査は陰性の人』。
どちらもニュージーランドでは『covid-19の感染者』として統計に入れられています。
これらの人たちに対し、政府の機関が、どこにいつ行ったかを調査して、接触した人たちに連絡、つまりcontact tracingをします。
covid-19症例に接触した人達は2週間の自宅隔離をするよう政府の医療機関から勧告され、定期的に体調チェックの電話連絡を受けます。
多分、これは日本など、ほとんどの先進国では同じ様なことをしていると思いますが、接触した人達がどのくらい政府の勧告を守って自宅隔離しているのか。その程度は、国によって異なるかもしれません。
最後に
と言う事で、2020年4月にニュージーランドがcovid-19のコントロールに成功した要因をあげてみました。
残念なことに、、2020年8月11日の新しいcovidテスト陽性症例の発覚後、この症例関連して、さらに新しくテスト陽性者が出ています。
これがもっと大きなクラスターになる、または、その他にもクラスターが発覚すれば、またニュージーランドもロックダウンに入るかもしれません。
冷静に、この先の動向を見守りたいと思います。