2021年6月現在covid(新型コロナウイルス)に対するワクチン接種が世界中で行われています。
ニュージーランドでは2021 年6月現在、Pfizerファイザーのワクチンが使われています。
『このワクチンは安全なのでしょうか』
時々患者さんからこの質問を受けます。
私の答えは『現在信頼される筋から得られる情報では、安全とされています』です。
Pfizerの最初の臨床試験 は2020年5月頃に始まったので、長期の結果はまだありません。
ということは、長期の副作用とか、長期のcovidへの免疫力はどうかと訊かれると、データはないので議論できません。
また副作用の頻度に関しても、これから更に多くの人がワクチンを受けると、副作用の起こるパーセンテージも変わってくるでしょう。
現時点で公開されているワクチン接種の効果と副作用のデータ、またcovidが全世界にもたらしている問題を総合的に考え、私は自分の患者さんにワクチン接種を勧めています。
私自身は、医療従事者が含まれるグループ2のワクチン接種が始まった時に、ファイザーのワクチン接種を受けました。
ただ、ワクチンに不安がある人が、いろいろなデータを吟味、解釈して最終的にワクチンを打たないと決めたら、その意思も尊重されるべきだと思っています。
ただ、そのデータは客観的な正確なデータでないと意味がありませんが。
covid(新型コロナウイルス)とそのワクチンの情報を得るのに使って欲しいサイト
私が情報を得る筋は主に、ニュージーランド政府のウェブサイト
Unite against covid-19 とMinistery of Health、及びWHOのウェブサイトです。
ファイザーのワクチンについては、オンラインでいろいろと情報が見つけられますが、
こちらはの新型コロナに関する正しい情報を伝える日本のプロジェクト『こびナビ』のものです。医療従事者向けとなっていますが、一般の人でも理解しやすいと思います。
ご自分で色々と調べる手間を取りたくない人、調べてもそれを理解できる自信がない人などは、”インフルエンサー”の言う事を鵜呑みにするのだけは避けて欲しいと思います。
私も「この人がこう言っているのですが、どう思いますか」と言う質問を受けたことがありますが、”インフルエンサー”が色々な情報を間違って解釈して、それを自分の都合の良い話に仕上げている、と言うことはよくあるように思います。
Covid(新型コロナ)ワクチン Q & A
このワクチンが他のワクチン以上に、人々に不安を与えている理由は?
このファイザーのワクチンが、人々の不安を呼ぶ主な要因は
- mRNAワクチンという、多くのワクチンとは異なった形のワクチンであること
- 通常のワクチン開発よりかなり短い期間に、一般の人への使用が始まり、データが限られていることと長期のフォローアップの結果がないこと
ではないかと思います。
上記の『こびナビ』のビデオに、ほとんどの疑問点はカバーされていますが、いくつかのよくある疑問について説明をしてみます。
mRNAワクチンは、人間の遺伝子情報を変えるのではないか?
”RNA”という遺伝情報につながっているものに関連するという事で、心配する方もいるのだろうと思います。
外来のRNAが人の遺伝子情報を変えるには、そのRNAがDNAに書き換えられ、それが人間の細胞の核の中に入って、人間のDNAに組み込まれるという、いくつかのステップが必要です。
例えばエイズを起こすHIVというウイルスは、RNAでできているウイルスですが、ウイルス自体が上記のステップ(=ウイルスのRNAが人間の細胞の核内に入る)を可能にする酵素を持っているために、HIVの遺伝情報が、人間の(正確に言えば、ある種のリンパ球の)核内の情報に組み込まれます。
covidのmRNAワクチン自体には、このような酵素は入っていませんので、人間の核内の情報が書き換えられることはありません。
mRNAワクチンでcovidに感染するのではないか?
ファイザーのワクチンに使われているmRNAは、コロナウイルスの遺伝子情報の一部にすぎない(スパイク部分)ので、ワクチンを受けてコロナウイルスに感染することはありません。
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの長谷川秀樹氏の話の載った、ビジネスインサイダーの記事を読んでいただくと、上記のことがわかりやすく説明されています。
mRNAワクチンの利点は、ウイルスの変異が起こった時に、ワクチンに変更を加える事が容易であるということです。
covidの変異株がどんどん出てきている現状に即座に対応するには、この利点はありがたいと思います。
個人的には、mRNAワクチンを作る技術自体、すごい事だなと思います。
短期間に開発、承認されたワクチンであることの問題はあるか?
先に述べた様に、短期間に開発されたこと自体は、mRNAワクチンであったということが主な理由です。(というか、短期間に開発するためにmRNAワクチンにする必要があった。)
上記の国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの長谷川秀樹氏の話から、mRNAワクチン自体は、全く新しいものではない事がわかります。
(mRNAワクチン自体について、もっと詳しく知りたい方は日本RNA学会の記事を参照にしてください。)
臨床試験に関して言うと、海外で臨床試験が行われた後、日本やニュージーランドで一般の人への接種も始まったので、よくワクチン反対派が言う『一般人へのcovidのワクチン接種は大規模人体実験だ』というのは、誤解を招く発言だと思います。
ただ、アメリカのFDA(U.S. Food and drug administration)のcovidワクチンの承認は、通常のものでなく、未だemergency use authorizationですし、ニュージーランドでは、国内の治験はありません。
日本では新しいワクチンを使うときは、日本でも追加の臨床試験をして、承認されるというのが通常のようですが、covidのワクチンは、このパンデミックが特例となる状況ということで、異例の速さで承認されました。
そう言う意味で『人体実験ではないか』と言う発言を聞き、心配する人の気持ちも理解できます。
その辺りは、「では自分はどの時点になったら、安全性に納得するのか」と言う事をはっきりしておかない限り答えは出ないですよね。(もちろん現在でも、麻疹や風疹のワクチンは危険だと言う人もいる訳ですから、どんなに長い間ワクチンが使われていても、安全だと納得できない人はいるでしょう。)
covidの致死率、ワクチンの副作用と効果を考えると、ワクチンをうつよりも、うたないようがリスクが少ないのではないか?
ワクチン反対者が反対する理由としてよく言っているは
『covidはインフルエンザとあまり変わりない致死率なのに、なぜ効果や副作用に不安があるワクチンを接種することを強要されるのか』という意見です。
致死率というのは、報告された症例数と報告された死亡者数から計算された値で、確かに
日本のデータによると、他の(非アジア)の国に比べて致死率が低いようです。
(その理由についてはいろいろ議論されていますが、まだはっきりとした理由はわかっていないようです。)
そんなことから”新型コロナは恐れるウイルス感染でない”という意見は、時に日本のオンライン上たくさん見かけます。
ただ世界中でのデータを総合してみると、『新型コロナの致死率は季節性のインフルエンザより高いようだ』とWHOも言っています。
また、致死率は、どれだけの症例が報告されるか、検査される、どれだけの死亡者がインフルエンザやコロナウイルスの感染によるものとして報告されるか、などによって左右されるので、完全な真実とは一致しないことも覚えておく必要があります。
(神戸大学の中澤氏の記事など参考にしてください)
covidのワクチンの副作用が心配です
ワクチンの副作用は前述の『こびナビ』のビデオに説明されていますし、他にも前述のニュージーランド政府関係のウェブサイトにも説明があります。
ほとんどの副作用は、注射した部位の痛みや腫れ、全身倦怠感など、他のワクチンと変わりないものです。
アナフィラキシーという、全身のアレルギー症状は、通常のインフルエンザのワクチンでの報告率よりもcovidのワクチンの方が高いのですが、これによって亡くなった人は、現在のところいません。
長期に何かの副作用があるかどうかは不明ですが、ワクチンの機序からも長期の副作用は起こる可能性は低いですし、実際にそれを実証することも難しいだろうなと思います。
covidのワクチンが不妊につながると言う噂も流れました。
これについては、covidのスパイク蛋白が哺乳類の胎盤にあるsyncytin-1という蛋白に似ているという事実から推測されたものでした。ファイザーのワクチンがcovidのスパイク蛋白を作り、人間の体にこれに対する抗体ができる、というメカニズムから、ワクチンを打つ事で、女性が自分の胎盤を攻撃する抗体を作り、不妊になるという考えです。
この説でいくと、もちろんcovidに感染して、自然に免疫力をつけた人も不妊になる確率が増えることになると思いますが、現在あるデータでは、それを証明するものはありません。
詳しくはこのwebMDの記事を読んでみてください。
covidのワクチンの効果はどうですか?
短期の効果については治験から『92%の有効性』が導かれています。
治験でファイザーのcovidワクチンを2回打った人は、10人中9人はcovidの症状を発症しなかったという事です。実世界でのワクチンの『効果』も、治験での『有効性』と同じ様な数字になることが期待されています。
ただワクチンを打ったからcovidに感染しないというわけではありません。感染しても重症化することを避けられるとされています。
もう一つ興味深いのは、その『効果』が続く期間です。
少なくとも6ヶ月は効果がないと、一冬を越せないということになりますよね。
現時点では長期フォローの結果がないので、covidワクチン接種後の免疫力がどれほど続くものなのか、インフルエンザワクチンのように毎年打つ必要が出てくるのか、などは不明です。
最後に
covidそのもの、またcovidワクチンについて、巷に様々な情報や意見があふれています。
どの情報を信じたらいいのかわからない、という方も多いと思います。
「新型コロナは恐れるに値しない」「ワクチンはうたないほうが良い」という話を聞くと、そちらを信じたくなるのは、通常の人間の心理だと思います。
私の周りにも、アンチワクチン派とか「新型コロナは陰謀だとかいう人」が少なからずいます。
そういう人達の中には、「政府や製薬会社が圧力をかけているから、正確な情報がが論文に出ないんだ』とか『こんなワクチンの副作用を発症した人がyoutubeに出てるから』という、信ぴょう性、客観性を私が確認することが困難な事を根拠にしていることが多いです。
データを解釈してワクチンを受けないことを決めた人も皆無ではありません。
でも多くの『反ワクチン派』の考えは、宗教と同じような信念によるもので、私が議論をしてその人の考えが簡単に変わる、ということはありません。
最終的には、現時点で入手可能な客観的な資料を、自分で検討して決断することが必要です。
現時点では私はcovidワクチン推奨していますが、あなたがいろいろと客観的な情報を吟味した上で、ワクチン接種をしないと決めたのであれば、その意思は尊重されるべきだと、私は思います。
(ただ客観的な情報を吟味してくださいねー)