『日本で医学部を卒業しなかったけれど、ニュージーランドで医師として働きたいなあ』と思っている方。
又、ご子息のためにニュージーランドの医学部へ行く道を探しているお父さん、お母さん。
ただ単に『ニュージーランドの医学部ってどんなんなの?』という方。
そんな方のために、今回はニュージーランドの医学部の情報をお伝えします。
私は実際に大学に問い合わせをしてはいないので、不完全な情報ではあります。
さらに情報が入り次第、記事の内容を増やしていこうと思います。(もしも興味がある方がいればですが。)
ただ、本当にニュージーランドの医学部に進みたい方は、ご自分で十分情報を得る英語力と実行力があるはずなので、この記事を参考にして、さらに大学に問い合わせていただければと思います。
ニュージーランドの医学部はどこにある?
ニュージーランドには2019年現在、2つしか医学部はありません。
一つはオークランド Aucklandにあるオークランド大学、もう一つはダニーデン Dunedinにあるオタゴ大学です。
ニュージーランドはOECDの国の中で、もっとも人口当たりの医学部の数が少ないそうです。
例えばオーストラリアでは人口120万に対して1つ医学部があるのに対し、ニュージーランドでは人口240万人に対して1つ、という計算になります。
このためニュージーランドは毎年1100人もの医師を海外から受け入れる事で、なんとかやっています。
ちなみに日本は人口154.6万人に医学部一つ、という割合です。
日本 | ニュージーランド | |
人口(2017年) | 1億2680万 | 480万 |
医学部の数 | 82 | 2 |
毎年医学部を卒業する人数/年 | 9000-10000 | 450-500 |
こちらの江原先生の2007年に投稿された記事にも、ニュージーランドの医学部について書かれています。
3つ目の医学部をワイカト大学に作ろうというプランはありますが、まだ実際に設立されてはいません。
ニュージーランドの医学部進学への道のり
ニュージーランドの高校から医学部へ行って医師になることに関しては、このウェブサイトが詳しかったので、参照しました。
(医学部に入ってからの情報もよくまとめてあります。この先はUMCTという試験がUCATに取って代わられます。)
ニュージーランドの高校の最終学年はYear 13と言います。
小学校が5歳から始まり、それがYear 1なので Year 13 は日本と同じく17-18才ぐらいですね。
ニュージーランドの場合、大学に入る時点では日本の様な『入学試験』はありません。
ただ、高校でどんな科目を取り、どの様な点数を取ったかが大学への進学の可否に大きく関わってくるので、日本でいうところの『内申点』が大切という感じです。
特に高校の最終学年の1年前の成績、つまりYear12の成績が重要なようです。と言ってもYear13が重要でないわけではありません。ただ最終学年だけ頑張ってもダメです。
University entrance (UE) standardsというのがあり、少なくともこれを満たさないと大学へは進めません。
UE standardを満たしているかどうかは高校の高学年での成績で決まるのですが、UE standardは最低基準であり、これを満たしていたからといって、医学部へ進むための大学のコースに入学が認められるとは限りません。
どこの国でも同じですが、医師になりたいなら学力がある程度以上であることが求められます。
また、ニュージーランドの高校卒業生がオークランドやオタゴの大学に入る場合は、必要な学科が決まっています。
オークランド大学かオタゴ大学のどちらを選ぶかによって、少し必要な学科が異なります。
オークランド | オタゴ | ||
Biomed | Health science | HSFY | |
必修科目 | Biology | Biology | Physics |
Chemistry | Chemistry | ||
English-rich subject(such as English, geography, classics, history) | |||
やっておくといい学科 | Physics | Math (statistics-especially) | Biology |
Math | Math | ||
English-rich subject | English-rich subject |
オークランド大学ではBiomedかHealth Scienceのどちらを選ぶかによって、満たさないといけないRank scoreがあります。
つまり必修科目の成績が良くなければダメだということ。まあ当然ですが。
それを満たしていて、かつUE standardも満たしていれば必ず1年目に入れます。
rank scoreを満たしていなくてもUE standardを満たしていれば、生徒数が定員割れしていれば、入学できる可能性があります。
オタゴ大学に入るためにはPreferential path way とcompetitive path wayがあり、高校で一定の成績を収めていればpreferential pathwayで入学できますが、そうでないとcompetitive path wayに申し込むことになり、大学が申し込んだ人の高校での成績と、残っている学生の枠の数より入学の可否を決めます。
オークランド大学でrank scoreとUE standardを満たしているというのが、オタゴでのpreferential pathwayに当たります。オークランド大学に入るのにrank score は満たさないけれどUE standardを満たす、というのがオタゴでのcompetitive pathwayと同じということです。
オークランドやオタゴで医学部に進むコースに行くために必要なレベルは上に述べたウェブサイトに乗っていますが、現在日本にいる人には意味がないと思うので、省略します。
医学部へ行くための、魔の大学1年目は?
ニュージーランドの医学部に関して一番大変なのは、1年目(の日本でいう『教養』から2年目の『医学部』に入るところです。
これが結局、日本での医学部受験と同じような高いハードルになっています。
私がとっているNew Zealand Doctorという雑誌に、この1年目が精神的にかなり学生の負担になっている、ということが記事になっていました。
医師になりたい人が多くて、そのポストの数が限られている状況では、結局どこかで競争になるので、しょうが無いのでしょうね。
オタゴ大学
オタゴ大学では高校を卒業した後、大学の1年目にはHealth Siciences First years(HSFY)というコースをとります。
ちなみにHSFYは他のニュージーランドの学校と同じく、2月に始まります。
HSFYは医師になりたい人だけでなく、歯科医や理学療法士など、医師以外の医療関係の仕事に就きたい人がみなこれをとります。
勿論、最初から理学療法士になりたい人もいますし、医師になりたくてHSFYに入ったけれど、2年目に医学部に入れずに他の資格を選ぶという人も出てきます。
ちなみに医者以外でこのHSFYを取るのは
- Bachelor of Dental Surgery (BDS) 歯科医になる
- Bachelor of Medical Laboratory Science (BMLSc) 検査に関する研究者になる
- Bachelor of Medicine and Bachelor of Surgery (MB ChB) 医師になる
- Bachelor of Pharmacy (BPharm) 薬剤師になる
- Bachelor of Physiotherapy (BPhty) 理学療法士になる
です。
その中で医師になりたい人は、2年目にBachelor of Medicine and Bachelor of Surgeryというコースへ入る希望を出します。
2年目からが本当の意味での医学部ですね。
後に述べるアセスメントを経て選ばれた人だけが医学部に入れます。
HSFY自体には理論的には、高校で必要な科目をとっており、今まで大学で勉強をしたことがない人は誰でも申し込めるのですが、結局そこから2年目の医学部に入るための競争が激しいので、良い成績を取れる能力がある人でなければ、HSFYに入っても、次の2年目に進めないということになります。
こちらにOtagoオタゴ大学のHealth Science First Year の情報がありますので、参照してください。
これによると海外からの留学生でBachelor of Medicine and Bacherlor of Surgeryに入れるのは5人まで(その年によって変わると思いますが、これは2019年にHSFY をした人の中で2年目- 2020年 - にBachelor of Medicine & Bachelor of Surgeryに入れる海外からの留学生の数です。)となっています。
つまり、永住権がない学生がHSFYに入った場合、ニュージーランドの高校卒業生よりも2年目の医学部に行く競争が激しくなる可能性があります。
Otago大学の海外からの学生のための資料 の24ページにhealth scienceのコースの情報が書いてあります。
大学2年目の医学部のコースに入るには、オタゴ大学では、1年目のHSFYで書くレポート全てが少なくとも70%であることが必要で、またUMATというコンピューターのIQテストみたいなものを受けます。(UMATはもうすぐUCATに変わります。)
ここのウェブサイトからUMATのサンプル問題をやってみたのですが、今の私の頭ではとても困難でした(笑)。受験生の時のやる気があれば大丈夫かもしれません。
とにかく英語力が十分ないと、問題を理解するのに時間がかかり、時間内に必要な問題数をこなすのが難しいと思います。
それぞれの結果が良くなければいけないのですが、レポートの点が67%、UMATのスコアが33%というウエイトで評価されます。
毎年医学部(2年目)に入る約300人のうち180人がHSFY からで、残りは学士入学と 他の経路からの学生ということです。
オークランド大学
オークランド大学ではHSFYでなくて、Health ScienceまたはBiomedicineのコース、いずれかを1年目に取ります。
どちらのコースに入るかは自分の興味がある学科が何であるか、が一番重要なポイントでしょう。
Biomedの方は、科学の勉強が好きなNerdがいく感じらしいです(笑)。
2年目に進学するにあったて、オークランド大学がオタゴ大学と大きく違うところは、医学部2年目に入るためにインタビューがあることです。インタビューはMulti Mini Interviewと呼ばれる形式のものです。
Biomed に行っても Health Sciに行っても、レポートは4つのコアペーパーだけが評価されます。(オタゴでは全てのペーパーが評価されます。)
かと言って、他のレポートもあまり悪ければ、医学部への進学はできません。コアペーパー以外もある程度のグレードであることが必須条件になっています。
オークランドの生徒もUMATを受けます。(将来はUCATになります。)
オークランド大学では、コアペーパーが60%、UCAT が15%、インタビューが25%という配分です。
オークランド大学の医学部は、一学年だいたい250人ぐらいの定員のようですね。
うちのクリニックに研修に来ていたオークランド大学医学部4年生のBen君によると、2年目に入ってしまえば(つまり魔の1年目から2年目の医学部に入ってしまえば)後はそんなにストレスが溜まることはないらしいです。
2年目に入った医学生の9割ぐらいは卒業するということです。
医学部に入れなかったけれど、医者になりたい人はどうする?
今日、オークランド大学医学部4年生のTom君に質問してみました。
「2年目の医学部に入れなかった人はどうするの?」
大学の1年目に入学を目指すことは1度しかできないそうです。
つまり2年目で医学部に入れなかったからと言って、もう一度1年目をやって2年目の医学部を目指すことはできません。
そう言う人は
- 他の国で医学部を目指す
- 別の専門で大学の過程を終わらせ(物理とか)、その後2年目(医学部)に学士入学を目指す
- 諦めて医師以外の道を行く
のいずれかになります。
1年目をやっている時に、良い成績を取っていないと2年目に医学部に入れない可能性は高いので、2年目をニュージーランドの大学で目指すことなく、アイルランドなど他の国の医学部に申し込む人もいるそうです。
2.の学士入学もチャンスは1度しかもらえず、もしも医学部の2年目(または学科によっては1年目に入ることもあるらしい)に受け入れてもらえなければ、再度チャンスはありません。
日本みたいに大学入試、医師国家試験に何浪でもできる国とはかなり違います。
日本人がニュージーランドの医学部を卒業して、医師になる方法
ニュージーランドの医学部に行って医師になるには色々なコースが考えられると思います。
- ニュージーランドの高校に入って、そこから医学部を目指す場合
- ニュージーランドの医学部がある大学に入学して、ニュージーランドの高校卒業生と同じ道をたどる
- ニュージーランドの大学の他の学部を終了後、または日本の大学を卒業後ニュージーランドの大学の2年目(もしくは1年目)に入る
ニュージーランドの高校へ行き、そこからニュージーランドの医学部を目指す場合
Year 12 以前、またはYear 12の最初からニュージーランドの高校に転入した場合
この場合は、ニュージーランドの高校での成績が、ニュージーランドの大学進入に関わってくるので、とにかくニュージーランドの高校で良い成績を取ることができれば道が拓けます。
ただ英語が苦手な場合、それが試験の成績に反映されて悪い点を取ることがないよう、そして英語もできるだけ早くニュージーランドのネイディブに近いレベルになるように努力が必要です。
Year12の途中以降からニュージーランドの高校に転入した場合
日本の高校からニュージーランドの高校の最終学年(または最終学年の近く)に転入した場合は、日本でとった成績がニュージーランドで認められるかどうか、転入する高校に問い合わせてみる必要があります。
もしも高校卒業近くにニュージーランドの高校に入り、そこからニュージーランドの医学部(2年目以降)に入学された方がいらっしゃったら、情報をいただけるとありがたいです。
基本的にある理系の科目をとっておくことが重要になるので、日本とよく似た感じです。
ニュージーランドで高校に行かず、日本からニュージーランドの医学部がある大学に1年生として入学する方法
オークランドもオタゴも海外からの学生のための準備コース Foundation year があり、これをとって大学の1年目を目指す、というのが一般のコースのようですね。
オタゴ大学
オタゴ大学のFoundation yearは26週のコースで、海外の留学生はこれを取って、その間のアセスメントで十分な能力があれば1年目に受け入れてもらえます。
このFoundation yearの中にも4つコースがあり、医学部を目指す人はHealth Scienceのコースを取ります。ここで下に述べる理系の学科や英語の能力が十分であることを評価されるようです。
(もしかすると他にも十分な能力があることを証明できれば、これを取らずに大学に入れるのかもしれませんが。ご自分で大学にお問い合わせください。)
オークランド大学
オークランド大学にも同じようなFoundation programがあります。
このFoundation programは通常は1年のコースですが、8ヶ月にできる学生もいるようです。
オークランド大学の1年目に入るのに必要な英語のレベルがあります。
少なくともIELTS のoverallが6.0。 5.5 よりも低いスコアがないことが必要。
Health Scienceに行くにはoverallが6.5。6.0より低いスコアがないことが必要です。
つまり、Foundation yearが終わるまでにこのレベルの英語力があることを証明できないといけません。
そのほかにも、もちろんFoundation year 中の学科のスコアが十分でないと、希望のコースにはいけません。
詳しくはこちらの資料を見てください。
ちなみにオークランド大学には、学生たちがブログを書くこんなサイトがあります。
ニュージーランドの学生たちがどんな生活を送っているのか垣間見られて、面白いです。
日本の医学部生がニュージーランドの医学部へ転入できるか
オークランド大学医学部4年生のBen君曰く、ニュージーランドの医学部に途中の年(3年目以上)から入って、他の生徒と一緒に卒業を目指すことはできないと言っていました。
ただ、大学には確認していないので、興味がある方は直接問い合わせてください。
最後に
これで、日本人がニュージーランドで医師になる全てのパスウェイをカバーしたように思います。
他の経路を辿って日本人がニュージーランドで医師として働く方法については、下の記事を参照してください。
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日本人医師がニュージーランドで免許を取るためのプロセス- 研修医として始める場合
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ニュージーランドで医師の資格を取る方法ー専門医として
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日本の医学生や医師の海外短期研修 - ニュージーランドに来るには