2020年3月11日、WHOが新型コロナウイルス(covid-19)がパンデミックになったと宣言しました。
パンデミックというのは、『世界中に広がって、もはや流行を阻止できる段階では無くなった』という意味です。
(2020年3月11日以前にすでにパンデミックの状況になっていたと思いますが。)
『流行を阻止できなくなった』ら、それでおしまいではありません。
次の段階では
『流行の広がりを出来るだけ抑える、広がる速度をゆっくりにする』ことが非常に大切です。
私の患者さんや、友人など、医療従事者でない人と話をしていると
と言う人がかなりいます。
また、色々な人のFacebookを見ると、医者のFacebookでさえ、
とか
とか書いている人がいます。(こう言う人はカリスマ医師であったりするので、多分たくさん読者さんがいるんですよね。笑)
ある意味で正しい発言であり、ある意味で誤解を生む発言であると思います。
情報に踊らされるのは良くありません。
パニックになる必要もありません。
異常に恐れる必要もありません。
でも、だからと言って、全ての情報を無視して、不必要にほかの人と接触するとか、手洗いを怠るとかはして欲しくないのです。
新型コロナウイルス(covid-19)は、いつもの風邪やインフルエンザとはちょっと違う点がある様です。
そのために、世界中が力を尽くして、感染が広がるスピードを遅くしようと努力しているのです。
この記事では、
- 新型コロナウイルス(covid-19)のどの点が、いつものインフルエンザと違うのか
- なぜ多くの国の政府がここまで真剣に流行を抑えようとしているのか
を、現在示されている情報から簡潔に説明したいと思います。
(新型コロナウイルス(covid-19)に関しては、新しいウイルスですから(コロナウイルス自体は新しくありませんが)、現時点での情報は中国で感染が始まった後のデータから導き出された事、既に知られているウイルス感染のパターンから予想される事などから来ています。近い将来にはデータがさらに増えて、出回る情報も変わってくると思います。)
新型コロナウイルス(covid-19)と普通のインフルエンザウイルスとの違い
新型コロナウイルス(covid-19)は重篤になる割合が高い
「重篤になる確率」というのは、
重篤になった症例数 / 総感染者数
なので
実際に感染をした人の総数がわからないと計算できません。
感染を受けた人は無症状であることもあります。
日本や、私の住むニュージーランドでは、covid-19を検査をするのに制限があり、無症状の人はもちろんのこと、全ての風邪症状の人に対して、新型コロナウイルス(covid-19)の検査が現時点では許可されない状況なので、実際の感染者数は、公式の報告数よりもかなり多いでしょう。
(それに対し、集団テストをしている韓国では、報告されている症例数は、実際の感染者数に近いと思われます。)
『重篤になった患者さんの数』や『死者の数』は、病院に送られたり、死亡届が出されたりするわけですから、そんなに真の値と異なることはないでしょう。
と言うことは、「重篤になる割合」は大体の目安であり、真の値とはかなり異なることが予想されます。
それをまず頭に入れておいていただきたいと思います。
「重篤になる割合」のグラフは手に入らなかったのですが、「死亡者数」から「致死率」を計算しグラフにしたものはウェブサイト上にあったので、それを示します。
以下の図はbusinesinsiderというサイトに載っているもので、CDCのインフルエンザの統計データと、中国のThe Novel Coronavirus Pneumonia Emergency Response Epidemiology Teamから今回の中国でのcovid-19の感染に関して出された論文の表の数字をグラフにしたものです。
年齢別の致死率を較べています。
これを見ると、covid-19の致死率が インフルエンザに比べ高いであろうということが見て取れます。
もうご存知の方もいらっしゃるでしょうが、このWorldometer と言うウェブサイトでは
毎日アップデートした各国での症例数、死者数などが発表されています。
2023年3月15日現在で、総感染者数と死者の数から計算すると、致死率は約3.7%になります。
covid-19感染の有無に関しての検査が広く行われている韓国の値を使って計算すると、致死率は0.9%です。
日本の値を使うと2.7%です。
もちろんインフルエンザでも、軽症であればほとんどの国では検査しませんから、コロナウイルスと同じで総感染者数を正確に計測するのは困難です。
従って「致死率」と言うのは完全に正確な値を示してはいない可能性を頭に入れておいてください。
アメリカのCenters for disease control and prevention (CDC)(疾病対策センター)によると、通常のインフルエンザの致死率は0.1%程度と報告されています。
日本でも大体同じくらいです。
もちろんインフルエンザで、日本国内で何千人の人が亡くなる年もあります。
私の見た、医者のFacebookページに
「日本では2018年にはインフルエンザで3300人の人が死んだ。現在の新型コロナウイルスとは較べ物にならないくらいの高い値だ。世の中の『新型コロナウイルスは恐ろしい』と言う情報に惑わされるな!」と言う趣旨のポストがありました。
上の厚生労働省のデータを見ると、まさにおっしゃる通りです。
その数は2249万人だったと報告されています。
すごい数ですよね。
単純に計算すると致死率は0.015%です。
もしもcovid-19の真の致死率が1%だとして、日本で2000万人が感染したら20万人が死ぬことになります。
では日本で(またほかの国で)インフルエンザが広まった理由は何でしょう。
WHOや国が選んだワクチンの予想が当たっていなかった、インフルエンザウイルスが突然変異してワクチンが効かなかった、などの要因もあるでしょう。
私は
- 調子が悪くても仕事を休めない
- 満員電車やバスで通勤、通学する
こんな日本の状況が、かなり関与しているのではないかと思います。
ただガーゼのマスクをしていても、思い出した時に手を洗っていても、ウイルス感染を防ぐには十分でないのです。
現時点でワクチン、治療薬がない
インフルエンザウイルスはその年によって流行するものが異なりますし、突然変異することでWHOや政府の予想が当たっていても、ワクチンがあまり効かないこともあります。
それでも、ワクチンがあることである程度の防御ができます。
このCDCのデータによると、年によってかなり違いますが、ワクチンには30-40%の効果がある、と報告されています。
ワクチンがあることで、一般の人が守られるのは当然のこと、医療従事者も守られる訳です。
医療従事者が感染により仕事ができないと、病人に対するケアのレベルが落ちることが予想されます。
covid-19に対する治療薬は現在のところないのですが、既に存在する抗ウイルス剤がcovid-19に効果があるかどうかが、検証されている段階です。
現在のところ、covid-19にはワクチンもありません。
その他のcovid-19の特徴
その他のcovid-19の特徴としては
子供や妊婦さんがかかっても、重症になる頻度が低い
インフルエンザは、子供や若い人、妊婦さんがかかって、重症化し、致死的になることがある頻度で見られます。
現時点の情報ではcovid-19はそう言うことが(あまり)なさそうで、私の知る限り9歳以下の子供でcovid-19で亡くなった症例はないと思います。
ただ高齢者、持病がある人がcovid-19に罹ると重篤になる割合が非常に高いです。
感染しても無症状の人が多い
これは、もちろん無症状の人も全て検査しないと、感染しているかどうかわからないのですが、現時点での情報ではこの様に言われています。
無症状の人は、ほかの人にウイルスを感染させにくい、とされています。
(ただ、無症状なら他の人に全くウイルスをうつす可能性がないわけではありません。
この辺りは、現時点では情報が十分でありません。)
なぜ、感染の広まりをゆっくりにする必要があるか
パンデミックの状況で大切なのは、流行が一気に多くの人に広まらない事です。
最終的には世界の人口の20−30%がcovid-19 が感染する可能性があります。(それ以上に高くなる可能性もあり)
それは避けられないでしょう。
では、なぜ、流行が一気に広まらないことが大切か。
多くの人が一度に感染して、重症な人が増えた場合、医療機関が対処しきれない状況になるためです。(現在のイタリアの状況)
感染者数のピークが早く大きくなった場合は、医療機関のキャパシティーを超える可能性がありますが、遅く小さいピークになるように努力すれば、その危険性を避けることができます。
重症者一人のケアにかかる医療従事者の数、薬の量などはかなり多いのですが、一時に重症になる人が少なければ、医療機関は対処できます。
一つの病院に重症者が10人いたらどうでしょう。
人工呼吸器は足りるでしょうか。酸素は?マスクは?
集中治療室の医者の数は?
多分普通の予定手術は延期されるでしょう。
(ニュージーランドでは人工呼吸器の数も限られているので、イタリアの様に患者の年齢や他の条件で、治療を行うかどうかが取捨選択されることになるかも。)
もちろん医療従事者も感染し、仕事ができなければ、その分医療のキャパシティが下がります。
皆さんにやっていただきたい事
それは
- 自分が感染しない。
- 自分が感染したら、ほかの人にうつさない。
この2つに尽きます。
1. のためには
- 他の国からの出入りを制限する
- 集団で集まりに参加しない
- 仕事や学校を閉鎖する
- 手を洗う
- 目、口、鼻を触らない
- 軽い風邪症状であれば、医者には行かず自宅で療養する
などが必要です。
2には
- 仕事、学校は休む
- 不必要な外出を避ける
- 家庭内でもほかの家族と2mは距離を置く
- 調子が完全に良くなるまで、ほかの人との接触を避ける
が必要です。
自分は若くて元気だから、外に出ても大丈夫、と言うのは自分のことだけを考えていれば正しいかもしれません。
でも、現時点で皆さんに考えて欲しいのは、ご自分だけでなく、皆さんの家族、同僚、友達、皆さんが住むコミュニティ、国のことなのです。
必要以上に恐れる必要もパニックになる必要もありません。
ただ、感染を広めるのを防ぐために、自分でできる努力を続け、
自己隔離する様に言われたら、それに従って欲しいと思います。
自分や家族がcovid-19に感染しているかもしれない不安がある人は
専用のhealthline 0800 358 5453
に電話してください。
直接GPや病院には行かないでくださいね。
色々ある情報から、どの情報を信ずるかを決めるのは難しいと思いますが、個人の医療従事者からの情報には誤解を招くものが多いことも知っておいていただきたいと思います。(まあ、私も個人の医療従事者ですが。笑)
医療の知識がない”インフルエンサー”と呼ばれる人達のSNSのポストには、極端に楽観主義だったり、極端に悲観的であるものが見られるようなので、特に気をつけてください。