避妊は、とても重要なことであるのに、日本では大っぴらに話し合いをする事がは恥ずかしい様な、タブーに触れている様な感じです。
少なくとも、私が日本にいるときはそんな感じでしたね。
私が日本を出たのは2001年だったので、今は少し違っているのかもしれないと期待しているのですが、そうでもないようです。
人間は動物であるから、ある年齢になると子孫を残す行動を始めるのが自然なことなのですが。
ただ、人間が他の動物と違うのは、自分の置かれた状況によって、
- 子孫を残す為の行動を(=生殖行為)するかどうか、
- 行為をしても子孫ができない様にするかどうか (=避妊)
- 子孫が出来たら、生まれてくる前に子孫が生まれない様にする(=中絶)かどうか
を、選択できることだと思います。
(もちろん、地域や宗教などによっては、選択可能ではないかもしれないのですが)
もしも自分の状況が、
- 1人の人間を世の中に生み出す事に責任が持てる状況でない、または
- 1人の人間を育てていくという責任感がない、のであれば
生殖行為をする限り、確実な避妊をすることが必要になります。
前置きが長くなりましたが、では日本とニュージーランドの性教育と避妊の現状を見てみましょう。
性教育
日本
私が高校生の頃は、共学の学校に行っていましたが、確か女子だけ、男子だけで保健の先生の話があった様な気がします。
あまり昔過ぎて内容は覚えていません。笑
いろいろ調べてみると、現在でもあまり日本の性教育は進んでいないようです。
このDiamond Onlineに載っている”日本の性教育の変遷に詳しい埼玉大学教育学部の田代美江子教授”のお話によると、日本の性教育の歴史は
- 戦後の『純潔教育』
- 1972年 日本性教育協会が設立され、性科学を主軸にする性教育へと転換
- 1992年 学習指導要領改訂の際、折しもエイズが社会問題化。性教育に発展の兆し
- 2002年 東京都日野市の七生養護学校(当時)で生徒への具体的な性教育が行き過ぎだと東京都議員が問題視した、性教育バッシング。
この件で、教師が処分され、性教育の発展に大きなブレーキがかかったらしいです。
(結局2013年に都議の敗訴が決まったらしいですが。10年以上かけて、どれだけお金とエネルギーと時間の無駄になったことか。)
今でも”学習指導要領では避妊や人工妊娠中絶は高校で指導する内容であり、小中高を通じて、性交という妊娠の経過は扱わないことになる”らしいです。
性行為について説明せずに、避妊や中絶についてどうやって説明するのか、不思議です。
早く性教育を始めることは「寝た子を起こすことになる」という危惧を述べる人が日本には多いようですが(特に古い世代)、何にもしなくてもある年齢になれば、ホルモンの活動が始まり「寝た子が自然に起きる」ということが、わからないのでしょうか。
いや、わからないはずはないですよね。
特に現在は、インターネットでいくらでも情報が得られる時代です。
自然にホルモンの変化により『起きてきた子』達は、
と思いながら、インターネットで(どれが本当の意味で役に立つ情報かも判断できず)こっそりと情報を得ていくのが、普通でしょう。
これを避けたいなら、「寝た子が起きる」前に、徐々に必要な知識を子供に与えていくことが、性教育が成功する鍵だと、私は思います。
教育を得るのは、学校から、社会(友達など)から、家庭から可能ですが、私達にすぐ変えられるのは家庭での教育。大人が恥ずかしがらずに、自然なこととして性教育を始めていきましょう。
ニュージーランド
うちの娘によると、彼女が性教育だと意識したクラスは小学校6年生(10−11歳ぐらい)の時。puberty talkと言って、6年生だけを男子と女子に分けて話をしたそうです。
中学校の時は、あまりそのような話はなかった、と言っています。
(でも、恥ずかしそうにして、あまり喋りたくなさそうだったので、多分授業はあったのだと思います。まずいですね。私は娘に当然のことのように性教育の話をしていると思っていたのに、ティーンエイジャーの娘は抵抗があるよう....)
高校では、1年生にはまだ性教育の授業は始まっていないので、よくわかりません。
ニュージーランドにも、日本の指導要綱みたいなのがあるのですが、性教育に関しては、性による解剖学や生理学的違いや性行為などの話だけでなく、人として、また男性、女性としてどのように自分を大切にし、相手も大切にするか、違う価値観の人を受け入れることの大切さなどが書いてあります。
性教育には、男性と女性の間のことだけでなく、ゲイ、レズビアンやトランスジェンダーなど、自分自身のジェンダーの問題も含まれます。
彼女の学校では、以前にスクールボール(学校のダンスパーティー)で、女の子同士のカップルを”queen” and ”queen”として生徒達が選んだとして話題になっており(伝統的には男の子と女の子のカップルを”king” and “queen”として選ぶ)、色々なgender diversityに許容があるようです。(少なくとも生徒の間では。)
この記事を公開してから、たまたまクリニックのナース達と話をしていたら、彼女達は「ニュージーランドは性教育は遅れているよね」と言っていました。
日本人の私には『遅れている』とは思えなかったのですが、もちろん、較べる対象によりますよね。
避妊方法
ニュージーランド
ニュージーランドでよく使われる避妊のオプションは
- コンドーム
- ピル(エストロゲンとプロゲステロン)
- ピル(プロゲステロン)
- インプラント(腕の皮下組織に埋め込むもの)
- プロゲステロンの注射
- 子宮内避妊具 (IUD) 銅の入ったものとプロゲステロン入りのもの
ニュージーランドで、どの避妊法をどのくらいかの人が使っているか、という統計は見つけることができませんでした。
私が自分の患者さんを診ていて得た印象は、コンドームとピルを使う人が多いということ。
最近は埋め込みのホルモンインプラントを使う人も増えてきました。
プロゲステロンの注射やIUDもよく使われます。
2019年11月からプロジェステロン入りのIUDも政府のfundingが得られ、かなり安価に使えるようになったので、これを使う人口が増えるであろうと思われます。
日本
今回初めて知りましたが、日本では避妊の選択肢は、コンドーム、ピルとIUDしかないのですね。
日本ではコンドームを使う事が避妊法としては、最もポピュラーな様です。
2016年の日本家族計画協会(なんか凄い名前ですね)の調査では
- コンドーム 82%
- 経口避妊薬(以下、ピル) 4.2%
- 子宮内避妊器具(以下、IUD) 0.4%
という事。
殆どコンドーム頼りですね。
コンドームは性病の予防になるし、良い所はあるんです。
ただ問題は、コンドームが男性主導の避妊方法である事。
計画なしの妊娠をして、一番の被害を被るのは女性ですから、女性主導の避妊方法の選択肢がもっと広まって欲しい。
「#なんでないの」という、日本の避妊のオプションを向上させようという目的のウェブサイトを見つけました。
みなさんも署名をしたりすることで、援助できますので、興味がある人は一度見てみてください。
避妊にかかる費用
ニュージーランド
ニュージーランドではどのくらい、避妊をするために費用がかかるかまとめてみました。
コンドーム
(処方箋あり)コンドーム144個まで $5
(処方箋なし)コンドーム12個入りの箱 $12 - $20
ピル
6ヶ月分(処方箋必要) $5
IUD 銅入り
無料 (看護婦や医者の受診料、IUD挿入料などかかる可能性あり)
IUD ホルモン(プロゲステロン)入り
2019年11月からMirenaとJaydessは政府のfundingが得られるようになりました。
- Mirena $5
- Jaydess $5
Mirenaは避妊とともに月経困難症に適応があり、5年で交換します。
Jaydessはプロジェステロンの量がMirenaより少なく、避妊の目的に使われます。避妊の効果を保つために3年毎に交換が必要です。
(他に診察料やIUD挿入料金がかかる可能性あり。)
インプラントJadelle
無料(看護婦や医者の受診料、インプラント挿入料などかかる可能性あり)
プロゲステロンの注射 Drpo-Provera
無料(看護婦や医者の受診料、注射料などかかる可能性あり)
緊急避妊薬
(避妊せずに性行為を行った後3日以内に、妊娠を避けるために摂る薬)levonogestrel (postnor-1)
- 処方箋あり 薬局で$5 (その他にGPでの処方箋代がかかる可能性あり)
- 処方箋なし 薬局で$35 - $50 (薬局へ直接言って、薬剤師と話をする必要あり)
*うちのGPクリニックでは、看護婦を受診すると、無料でクリニックに予備で持っている緊急避妊薬を渡すことが多いです。(看護婦受診料はかかります)
日本
コンドーム
10個入り1箱で1000-1500円くらい
ピル
ピルは、避妊のためには保険適応がありません。
避妊は医療じゃないと言われると、まあそうかもしれませんが、避妊のためには薬が必要なことを考えるとやはり保険医療に含まれるべきかな、と個人的には思いますね。
2000−3000円/月
月経困難症とかには保険適応があるのに、保険を使ってもそんなに安くならない。
なぜ?と思っていたら
産婦人科医の宋美玄(そん・みひょん)さんがBuzzFeedに書いた記事を見つけました。
こんなことがあったのですね。
まあ、日本でピルを買いたいみなさんは、通販で少しでも安くピルを買う、ということのようですね。
IUD
(5年有効) 5-10万円。
月経過多症には、保険適応で2−3万円。
緊急避妊薬 アフターピル
ノルレボ 1−3万円 (医師からの処方必要)。
ジェネリックの薬を使ってもう少し安く、緊急避妊薬を手に入れることもできるようです。
中絶の頻度
避妊がどれだけうまくいっているかの指標になるかなと思い、人工中絶の頻度を見てみました。(結局は、指標にはなりませんでした.....)
ニュージーランド
グラフは、ニュージーランド政府の資料より引用しました。
見づらい方は、こちらの元資料を参照してください。
日本
グラフは厚生労働省のデータを引用しました。
見づらい方は、こちらの元資料を参照にしてください。
数字だけで見ると、中絶率はニュージーランドの方がずっと高い!
これは、何を意味するのでしょうか。
主にコンドームで、ニュージーランより避妊をうまくやっている日本人がすごいのか、
こんなに避妊のオプションがあっても、避妊をしないで望まないニュージーランドがひどいのか。
最後に
ニュージーランドにいらっしゃる日本人の方は、こちらにどのような避妊のオプションがあるか、ご存じない方もいらっしゃるかもしれません。
必要な方は是非、かかりつけのGPクリニック、またはお近くのFamily Planningで相談してください。