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医療トピック

抗生物質耐性菌とプラスチックバッグの問題は似ている!? 手遅れになる前に意識と行動を変えよう!

更新日:

ニュージーランドでは、風邪の季節はピークを越したように思います。
それでもまだ毎日、風邪の症状でGPにかかる患者さんは多いです。

そしてGPの私は、毎日毎日「ウイルス感染」と「細菌感染」の違いの説明を繰り返しています。

(日本みたいに、説明したら保険点数が取れたら、それだけでもかなりGPの収入が上がるのではないか、と思うほどです。笑)

と言うことで、今回は抗生剤の使い方と耐性菌について語ります。

(この記事の中では、「抗生剤」と「抗生物質」は同じ意味で使っています。)



抗生剤に耐性な細菌は、なぜ出てくる?

医療に興味がない方でもMRSAとか言う言葉は聞いたことがあると思います。

これはmethicillin resistant staphylococcus aureus メチシリン耐性ブドウ球菌のことです。

 

日本ではメチシリンを使っているのを見たことがありません。

では、なぜこの見た事もない抗生物質の名前が、ここに出て来るのでしょうか?

 

世界で最初に発見された抗生物質がペニシリンだと言うことは

知っている方が多いと思います。

このペニシリンのお陰でどれだけの人命が救われたでしょう。

若草物語のベスも、ペニシリンがあれば、猩紅熱で死にそうな状態になることもなかったのです。

 

でもペニシリンを使い続けていくと、

細菌達は『殺されてたまるか』と、ペニシリンの効果を弱めるペニシリナーゼと言う酵素を作れるようになります。

ペニシリンの発見・開発

             

ペニシリンに殺されることがないように、ペニシリナーゼを産生できる耐性細菌が出現

             

このペニシリナーゼに抵抗できるペニシリンとして『メチシリン』が開発される

これで人間側が勝利..................と言うわけにはいかず。

今度は細菌が、メチシリンの効果を弱める酵素を産生するようになりました。

それがMRSAです。

(まあ、細菌が考えて耐性菌を作り出す訳でなく、ランダムで起こる色々な遺伝子変化の中から、抗生剤に負けないものが残っていくと言うのが、実際に起こっていることだと思いますが。)

 

メチシリン耐性の菌 MRSAは、

日本で良く使われるセフェム系の抗生物質にも耐性であることが多いので

結局、MRSAによる感染症が起こった時に、使える抗生剤があまりない!と言う事態になります。

 

抗生剤を使い続ける限り、耐性菌は発生する。

『抗生物質耐性菌に対処する薬を開発した』と人間が思っていると、

細菌はすぐまた変化して、その抗菌剤に耐性のものができる。

 

結局新しい抗生物質の使用を始めれば、ある時点ではその抗生物質に耐性の菌が出てくるのは避けられないのです。

 

このYoutube の動画を見ると、どんなスピードで細菌が抗生剤耐性を獲得していくのがが見られます。

 

 

細菌の増殖するスピードは人間とは比べ物になりませんし

耐性菌は、自分が分裂してさらに耐性菌の数を増やす以外にも

他の耐性でない菌に遺伝子を移して、耐性菌にすることもできます。

 

ここでは細菌が抗生剤耐性化するメカニズムは説明しませんが

興味のある方は、このAMRのページなどを参照してください。

 

とにかく、耐性菌はすごいスピードで増えていくことが可能なのです。

 

画期的な抗生物質はそんなに次々と開発される訳ではないので、

結局のところ、新しい抗生物質の開発だけで細菌との戦いには勝てません



抗生剤耐性菌が増えて困ること

ニュージーランドでは看護婦さんやお医者さんが病院で勤務を始める前に

MRSAのチェックとして、鼻の中や鼠蹊部の皮膚にMRSAがいないか調べます。

 

中にはMRSAが皮膚や鼻腔に見つかる人もいます。

GPクリニックに来る患者さんでも、皮膚の感染症で検体を取るとMRSAであることもあります。

 

MRSAは今や、そんなに稀なものではないのです

 

健康な人が皮膚や鼻の中に耐性菌を持っていても、それ自体は問題になりません。

抗生剤耐性菌が増えて、一番問題になるのは

特に免疫力が落ちている人が耐性菌による感染症にかかり

感染をコントロールできなくなった時です。

 

抗生剤の使いすぎは世界中で問題になっている

世界中で抗生物質の使い過ぎが問題になっています。

日本やニュージーランドも例外ではありません。

 

厚生労働省の委託事業であるAMR臨床リファレンスセンターのサイトを見ると、どんな対策や計画があるのかを見ることができます。

 

日本を含めた世界の抗生剤の使用と、耐性菌については

2016年に厚生労働省健康局から出されたレポートがあります。

この下の3つの図表はこのレポートからの引用です。

これを見ると、日本の抗生剤の使用は2000年から2010年までは減少傾向にあるようです。

ニュージーランドでは思い切り上昇していますね。(^_^;)

 

その他に、発展途上国でも抗生剤の使用が増加しているのが見られます。

これは、この記事によると、感染症と抗生物質について知識がなくても、安易に抗生剤が手に入るような状況が関係しているようです。

 

これを見ると抗生剤の使用が少ない国では、耐性菌の検出も少ないです。

このニュージーランドヘラルドの記事によると、ニュージーランドは22.6 defined daily doses (DDD) per 1000 peopleで、日本の14 DDDよりもずっと高いです。

2016年の厚生労働省健康局のレポートの中の図表を見ると、こんな感じです。

 

個人的な印象からすると、日本の方がずっと抗生剤を安易に処方するように感じていたのですが、ニュージーランドの方がたくさん処方しているんですね。

ただスペクトラムの広い抗生物質を使う割合は、日本の方がかなり高いです。



抗生剤を内服しているのは人間だけでない...そして環境汚染

ところで、抗生剤を使用しているのは人間だけではないのをご存知ですか?

家畜や植物に対しても抗生物質が使われています

ほら、あなたの食べているマクドナルドのハンバーガーのパテにも抗生物質入っていますよ

 

そして、抗生物質の問題は、投与された生き物だけに問題をもたらす訳でありません。

人間や動物に投与された抗生物質は排泄されて、今度は環境を汚染するのです。

この記事の中で、ヨーク大学のボクソール氏が言っている『(抗生物質に寄る環境汚染の問題は)さまざまな点で、プラスチック汚染の問題に似ています』と言う言葉が、まさに私が思っている事と同じで、ちょっと嬉しくなりました

 

人間って、問題があることがわかっていても、最後の本当に困った状態になってからでないと、意識と行動を変えないんですよね。

日本での私の経験

日本では外科医として働いた時間が10年近くあるのですが、私を含めた外科医の抗生剤の使い方はかなり大雑把だったと思います。

術後の予防的抗生物質、術後の感染が起こった時の抗生剤など、頻繁に抗生剤を使っていました。

その頃は、薬剤会社の営業の人は”プロパー”と呼ばれていました。

(新しい薬が出たりすると、宣伝と説明にきて、ボールペンとかお弁当とかをくれました。笑。

今はそんなことはなくなったのだと思いますが。)

 

そのプロパーさん達の宣伝文句を聞いて

「わー、これはこんなに色々な細菌感染をカバーするんだ。この抗生物質を処方しておけば、どんな細菌感染でも大丈夫」

なんて思って使ってみたことを覚えています。

(まあ、いい加減に使っていた訳ではないですが、もう少し色々なことを考慮して薬を選ぶべきだったなと思います。)

 

日本では今でも、自分で好きな抗生物質を選んで使い、あまりガイドラインに沿って処方すると言うことはないようです。

(もちろん”好きな抗生物質”と言うのは、ターゲットにする細菌に対しての効果を考えた上で、好きなものを選ぶと言う事です。)

 

この、岩田健太郎先生が亀田総合病院にいらっしゃった2005年に出された記事は、彼が海外で働いた経験なども踏まえて日本の抗菌剤使用について書いてあり、興味深いです。

 

日本の抗生剤の使用についても、もう少しクリアなガイドラインを設けて

一般の開業医もそれに基本的に従うような規則(または保険診療の点数を、ガイドラインに従っているかどうかで変える、など)

を作れば、大きな変化が見込めるのでは、と思います。

(その前に医師の大きな抵抗に合うと思われますが。笑)

ニュージーランドでの経験

私の数年間のニュージーランドの病院での経験では、抗生剤の種類はだいたい決まっており、同じような症例には、同じような薬を使っていました。

もちろん、それで改善しない感染症に関しては、痰や血液などの検体をとって、細菌の種類とどの抗生物質が効くかをチェックして、別の抗生剤を使います。

GPの行うプライマリーケアレベルでも、抗生剤の使用については、ガイドラインがあり、それに従っている医師が多いです。

(中には、この抗生剤は子供受けする味だから処方した、と言っていたGPもいたので、全ての人が厳密にガイドラインを守ってはいませんが。

でも、ガイドラインを守らない医師は少数派だと信じています。)

 

それに加え、ニュージーランドでは、国の機関であるPharmacなどから、スペクトラムの狭い抗生剤を使うように医師に向けて指導されています。

 

抗生剤によっては、病院の専門医と相談してからしかGPには処方できないとか、政府のfundingがないから薬の値段が高すぎて患者さんが買えないとか、色々な形で

スペクトラムの広い抗生剤が簡単に処方できないようになっています。(不可能ではないですが)

そのため、処方される抗生剤はだいたいどのGPでも同じようなものになるのですが、この記事によると処方される頻度としては、残念ながらまだとても多いようです。



GPが日常生活で遭遇する、患者さんの”抗生剤万能”思考への対応

患者さん自身が抗生剤が必要だと信じているときは、

GPが説明しても、なかなか納得してくれません。

前に診てくれたGPは”ウイルス感染だから”と言って、抗生剤をくれなかったから、こんなに私の症状がひどくなってしまったのよ。以前にこんな症状だった時、抗生剤を内服したら、すぐ良くなったのよ。GPが抗生剤を出したくないのは知っているけれど、もう一度診察に来てまた$40も無駄にしたくないわ。

なんて、強い口調で言われることもしばしばです。

 

また幼稚園などでは、結膜炎の子供の親に「GPに行って目薬をもらって治療するまで、病欠してください」と言うところが多いです。

子供は風邪をひいていて、どうみても結膜炎はウイルス感染なのに、どんな目薬を処方しろって言うのでしょうか。

細菌性の結膜炎であっても、目薬を使って治療しなくても普通は良くなりますので、実際に結膜炎で目薬がいることなんかあまりないのです。

 

親としては、GPに目薬を処方してもらえれば、子供が幼稚園に戻れ、自分も仕事に戻れる、と言う状況なので、私が「目薬なんかいらないですよ」と一言いって帰ってもらうと言う訳にもいかない。

結局、診療時間の大半が、親への説明と、幼稚園への手紙を書くのに費やされることになります。

 

患者さん(や社会)の『抗生剤万能思考』に対処するには、

  • 患者さんの話を良く聞いて信頼関係を築き
  • 少しずつ患者さんを教育していく

と言うことが大切ですね。

    

抗生剤耐性菌に関しての私の疑問

 

最後に私がいつも、抗生剤耐性菌について疑問に思っていた点を書きます。

インターネットで調べてみても、明確な答えは出なかったので、

どなたか、この分野の専門の方が答えてくださると嬉しいです。

Q. 抗生剤耐性ができた細菌が、自然に耐性を失うことがある?

A. 私が興味があるのは、

  • 耐性菌は自然に耐性を失い得るか?
  • 現時点で抗生剤の不要な使用を抑えたら、状況の改善になるか?

と言うことです。

このハーバードの先生の記事によると、

”細菌にとって、耐性を続けて持つことは自分のエネルギーを余分に使うことに繋がる場合がある。

そのため、抗生物質に晒されていない状況では、耐性のない菌の方が早く増殖し、耐性菌がなくなる可能性がある”

とあります。ただし、その後には、

”ただ耐性を保つためのエネルギーコストは低いため、こう言う現象はあまり起こっていない”

と言う意味のことが書いてあります。

 

こちらのオーストラリアのBond Universityからの発表を見ると

『抗生剤の使用を抑えると、耐性を持つ菌が減る可能性はある』と言う事です。

 

結局、一回できてしまった、抗生剤耐性菌を自然に完全に無くすことはできなさそうです。

ただ、不要に使い続けることをやめれば、耐性菌が検出されるのを減らすことはできるだろう、と言うことのようです。

 

Q. 抗生物質は処方されたら、最後まで内服しないと耐性菌ができる原因になるのか?

 A. 先に挙げたAMR臨床リファレンスセンターのサイトによると、

「抗生剤を中途半端に使用することが、抗生剤耐性菌の出現の原因になる」

とされています。

理論的には、抗生剤を使用すると、まず耐性のない菌が減り、耐性のある菌は残る。

耐性のある菌も抗生剤の使用量や期間によっては殺されうるので、

指定された抗生物質を使う期間を守ると耐性のある菌も減らせる。

使用量や期間が短いと、耐性菌ばかりが残ることになる。

と言う理論です。

 

でも、明らかに細菌感染で、抗生剤を投与されて非常に良くなった場合

  • あとは、人間の免疫力に任せても良いのではないか?
  • 抗生剤が長期に投与されれば、結局耐性菌が残るので、良くないのでは?

と私は思っていたところ、こんな記事を見つけました。

この記事の中に引用してあるMartin Llewelyn氏の"Then antibiotics course has had its day"と言う論文は、こんな私の疑問にある意味で答えてくれました。

 

(その患者さんの状態と、どの様な感染症をどんな目的で治療するかによるでしょうが)

抗生物質の投与期間を予定より早く終わりにすることが、耐性菌を増やすと言うエビデンスはないようです。

ただ

  • リウマチ熱を防ぐためのペニシリンの投与や
  • ピロリ菌を除菌するための抗生剤の投与など

は、明らかな感染症の症状を目安に治療はできないので、

今まで行われた研究の結果にしたがったガイドラインの投与期間を守ると言うことが大切です。



 

最後に

抗生物質は多くの人の命を救っています。

でも、使いすぎる事で、

  • 耐性菌の出現や
  • 人間の体に常在する細菌のバランスを壊す

と言う弊害があります。

 

健康な人間には、感染に戦う免疫力があります。

100年前には、私達人間は抗生剤無しで、自分の免疫力だけで細菌と戦っていたのです。

(「死にそうになっても、抗生剤無しで戦え」と言っている訳ではありませんので、誤解のないように。)

 

また、感染を防ぐためにできること(手洗い、うがい、基本的な衛生状態の改善など)も、いろいろあります。

 

抗生剤の問題はプラスチックバッグの問題のように

今、私達が何かを変えなければ、将来人類が地球上に生きていけなくなるかもしれない

と言う重大な問題であることを、より多くの人に認識して欲しいと思います。

 

この記事をここまで読んでくださった医療従事者の方は、今まで以上に抗生剤、抗ウイルス剤の処方に気を使っていただけたら嬉しいです。

非医療従事者のみなさんは、

  • 不要な抗生物質(及び抗ウイルス剤)を要求しない
  • また医師が抗生剤(や抗ウイルス剤)を処方しようとしたら、本当に必要であるか質問をして話し合って頂きたい

と思います。

 

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