日本の医療に良い点と悪い点があるように、ニュージーランドの医療にも良い点と悪い点があります。
また、ある見方でいけば良い点も、別の視点から見ると問題点となり得ます。
今回はニュージーランドで働く日本人医師として、またニュージーランドで患者になった経験から私が思うところを書いてみます。
この記事を書くにあたり、ニュージーランドに住む日本人の方がどのようなことに不満を持っているか、いろいろなウェブサイトを参考させていただきました。
最初からある特定の科の専門家に診てもらいたいのに、GPに行かないといけない
これは医療提供者としては問題とは思えませんが、日本人の方からは非常に不満が多いようです。
今まで日本で、直接各専門科に、自分で判断して受診するというシステムに慣れてきた方には、どの科の病気でも、まずGPに行く、というのは変なシステムでしょう。
日本にはGPというどの科でも診療する開業医はあまりないですから、理解できないのも当然です。
(多分こちらで生まれ育った日本人の方なら、このシステムが普通だと感じられるので、それほど不満はないと思うのですが)
この不満は、GPを他の専門家に行くための紹介者で、専門知識のない医者と考えているところにあるのではないかと思います。
実際は、大半の問題は、GPの知識と経験で、他の専門医に紹介される必要なく解決されます。
ニュージーランドでGPの専門医になるには、他の専門医のトレーニングと同じようにトレーニング期間を経て、試験を何度か受けて、それに合格しないといけません。
現在のところではその資格がなくても、救急のクリニックなどで働くことが可能なので、その医師の肩書きを見なければ、トレーニングを受けたかどうかはわかりません。(専門医となったGPはFellow と呼ばれ、FRNZCGP Fellow of Royal NZ college of GPという肩書きが付いています。トレーニング中の医師はMemberなのでMRNZCGPです。学会にも入っていない医師もいます。)
この記事も参照してください。
ニュージーランドの医療システムの中でのGeneral Practitioner (GP)の役割
もう一つ、このような不満が生まれる理由の一つに、GPクリニックでは画像診断や各種の検査ができない、ということがあります。
例えば、日本で腹痛のため胃腸科に受診すれば、そのクリニックで胃カメラやCTまでやってもらえるのに、ニュージーランドでは、GPからどこかに紹介してもらわないといけない、というケースなどです。
GPクリニックにもいろいろな検査施設があって、すぐにレントゲンを撮ったり超音波ができたりすればいいなと、医師の私もよく思います。
ただ、それに対する政府の資金援助はないので、ほとんどのGPクリニックには、そのような施設は併設されていません。(他の画像診断のビジネスが同じ建物の中にあって、検査をしていることはあります。)
GPから公立病院の画像診断への紹介には、制限があります。多くの場合は、公立病院のその科の専門家にまず紹介して、その専門家が承認して初めて公立病院の画像診断に紹介できるという形です。
GPの私にもまどろっこしいシステムですが、確かに公立病院の限られたキャパシティーを考えると、ある程度の制限がないと困るのは納得できます。
結局、この不満を解決するには、
患者さん側の意識を変えて、日本で皮膚科に、婦人科に、精神科に、耳鼻科に行く時と同じ気持ちでGPを受診し、GPとの間に信頼関係を築くこと
もしくは
日本に帰って医療を受けること
が可能な選択肢として考えられます。
GPの私としては、みなさんがかかりつけのGPと良い関係を持っていただけることを願っています。
公費での検査・治療を選ぶと、待ち時間が非常に長い
これは医療提供者の私も不満に思います。
政府が、予算を上手に使って、病院の医師や検査技師の数を増やす、施設を改善するということがない限り、大幅な改善が短期間に行われることはないでしょう。
もしくは政府が税金を高くして、医療に回すお金を増やすか、です。
とにかく現状の公費の医療には、十分なキャパシティーがないのです。
ご自分で出来る選択肢としては、ご自分で検査や専門医の受診の費用を払うか、それをカバーする医療保険に入るという選択。私費なら、いろいろなことがかなり早くできます。(それでも日本に比べれば遅いかもしれませんが。)
日本では、国民保険の月額保険料として、多分一月にNZ$300-400ぐらいは保険料として当然のように払っていらっしゃたでしょう。日本で開業医にかかると、もちろんその際にも医療費の何割かを払っていらっしゃったのはずです。
ニュージーランドではその分の保険料を払わなくていい代わりに、自費で検査や治療をするというのも選択肢かなと思います。
(もちろん現在でも日本の医療の保険料を払っていらっしゃる方は、日本とニュージーランド両方で払うのは、かなり負担になりますが。)
GPの受診料が無料でない
「病院に行くと無料なのに、なぜGPに行くとお金を払わないといけないのか。」
「最初から公立病院の専門家に行って、無料で医療を受けたい。」
これはニュージーランドの医療システムによるもので、先ほど述べたように、このシステムが近い未来に変わることはないでしょう。
GPで患者さんがお金を払わないといけないのは、政府が病院でのコストはすべて税金でカバーしているけれど、GPでのコストはすべてカバーしてくれていないからです。
GPクリニックは、政府からのお金と患者さんから払われるお金でビジネスをやりくりしていかないといけません。
この辺りはこちらの記事を参考にしてください。
ニュージーランドの医療システム(日本との比較) - 中級編
また、すべての人が公立病院に行くということになったら、外来は許容範囲を超えて、多くの人が治療を受けられないということになります。
これには、残念ながらご自分で出来る解決方法はないように思います。
最後に
ニュージーランドの医療システムにはいろいろ問題があり、特に日本のように異なったシステムを持つ国から来ると、不満に思うことが多いと思います。
解決法としては
- 信頼できるGPを探して、良い関係を作ること
- 必要であれば、私費で医療を受けること
- どうしても不満が解決できなければ、日本に帰国して医療を受けること
が考えられます。
できればみなさんがかかりつけのGPと良い関係を築いて、出来るだけ不満を感じないで医療を受けられると良いなと思います。