アトピー性皮膚炎(英語ではeczema またはatopic dermatitis )は日本でもニュージーランドよく見られる疾患です。
この疾患は赤ちゃんや小学校へ行く前の子供に多く、子供が大きくなるにつれ、自然に徐々に改善していくことが多いです。
ただ大人になっても、かなりひどいアトピーの症状が続いている人もいます。
アトピーは、患者さんである子供(や大人)にとって大変な疾患です。
それに加え、その子供の世話をするお母さんや家族の方にとっても、真っ赤になった皮膚を掻きむしっているお子さんを見ているは精神的負担になります。
医者に行くたびに違う塗り薬を出され、種類が多すぎてどれが何の薬かも分からなくなっている。
どの塗り薬を使っても、却ってアトピーは悪くなる様で、子供は夜眠れない。
もちろんそうなればお母さんも眠れない。
親子共に疲れて絶望的になり、何でも効果があると言われると高い薬でも健康法でも試してみる、という事は実際によく聞きます。
はじめに
まずみなさんに理解していただきたいのは、アトピーは「治す」病気ではなく「コントロールする」病態であることです。
また、アトピーのコントロールは『ステロイド』を使うか、または『脱ステロイド』するかではないんです。
大切なのは『保湿剤』の使用です。
アトピーの発症には、様々な要因が関与しています。
環境的要因は変えられても、遺伝的要因も免疫学的要因など、自分で変えることができない要因もあります。
それでも、子供の年齢が上がるにつれて、自然にアトピーの状態が改善してくることはよく見られます。
アトピーが非常にうまくコントロールできれば、痒みが軽減し、炎症が収まって皮膚の状態も改善します。よく眠れるようになり、ストレスも減るでしょう。そうすると皮膚の状態はさらによくなるかもしれません。
反対にコントロールが良くなければ、掻くことが止まらず、掻けば掻くほどさらに痒くなり、睡眠は悪くなり、ストレスはたまる。その分余計に皮膚の状態が悪くなる。このように悪循環に陥る可能性もあります。
もちろん、やるべきことを全てやっていても、残念ながら皮膚の状態が悪くなることがあります。
その時には、GPと相談しながら、何か原因があってそれに対処しないといけないのか(例えば、感染が起こったとか、塗り薬に皮膚が反応しているかもしれないので別のものに変えるかなど)を見つけ、いかに皮膚を早く元の状態へ持っていくかが大切です。
アトピー治療の基本
とにかく大切なのは、
- 皮膚のバリアーを改善すること
- 抗炎症剤を正しく使うこと
- 誘因になるものを避けること
の3つです。
1.皮膚のバリアーを改善する
目的
アトピーの人の肌は乾燥していて、外からの刺激に簡単に反応して炎症を起こしやすく、かゆみも感じやすくなっています。
もちろん掻けば、普通の状態の皮膚に較べると、容易にダメージを受けます。
傷ついた皮膚表面から細菌が入ったり、いろいろなものに皮膚を通して感作され、アレルギー反応を起こしやすくなります。
皮膚のバリアーを改善するには、とにかく保湿剤を使って皮膚の水分量を増やし、乾燥を抑えることが重要です。
皮膚の層に水分が多く含まれた状態になると、それだけでもかゆみが減ります。
保湿剤の種類
保湿剤にはローションから軟膏までいろいろなものがあります。
基本的にはできるだけ、”サラサラ”でなく”ベタベタ”な保湿剤を使うこと。
もしも”サラサラ”のローションしか肌に合わないという時は、その上にワセリンを塗って水分の損失を抑えるようにしましょう。(もちろん、ワセリンが肌に合わないとダメですが)
ローションだけでは、反対に皮膚が乾く危険性があります。
保湿剤の使用量と使用の仕方
非常に多量の保湿剤を使う必要があるので、政府のfundingがある(=3ヶ月分が$5、または13歳以下の子供であれば無料になる)保湿剤で、肌に合う物があれば一番良いと思います。
まずGPに行って、相談してみてください。
500gの保湿剤を少なくとも2−3週間で使い切ることをゴールにしてください。
500gの入れ物に入った保湿剤が3ヶ月も保つようであれば、使用量と頻度が少なすぎます。
とにかく一番大切なのは、肌にあった保湿剤を毎日最低2回、できれば1日に4回でも5回でも充分量使ってください。
ほとんどのコントロールの悪い患者さんは、保湿剤を充分使っていないことが原因です。
入浴
入浴はできれば毎日(もちろん浴槽がなければシャワー)してください。
大切な点は
- お湯の温度を熱くしないこと、
- 長時間の入浴(15分以上)を避けること、
- 入浴剤を使わないこと
- 保湿剤を石鹸代わりに使うこと
- お風呂やシャワーから出たらすぐに保湿剤を全身につけること
です。
皮膚の細菌感染が多い子供とか、アトピーのコントロールがよくない子供に対して、医師がブリーチバス(ブリーチを入れたお風呂に浸かる)を勧めることがあります。
こちらにStarship hospitalのブリーチバスのリンクを置いておきます。
アトピーの肌には普通の肌よりも多く細菌がいるので、これを減らそうという目的です。
強いエビデンスはありませんが、アトピーの専門家の医師からもよく勧められている方法です。
ブリーチバスをしたら、その後の保湿をしっかりしてください。
保湿剤に皮膚が反応する可能性
ただ、保湿剤にはいろいろなものが入っているので、アトピーの肌がその物質に反応を起こして、炎症を起こすこともあります。
例えばラウリル硫酸ナトリウム sodium lauryl sulfate (SLS)は界面活性剤としていろいろなクリーム、洗剤などに入っています。
Emulsifying ointmentという、政府のfundingがある軟膏にはSLSが含まれているので、これは皮膚を刺激する可能性があります。
ただ、これも人それぞれで「emulsifying ointmentは良かったけれど、SLSの入っていない〇〇を使った時はかえってアトピーが悪くなった」という人もいれば、全く反対の感想を持つ人もいます。
また、最初は問題なかったけれど、ある時点からある保湿剤が合わなくなる、と言う可能性もあります。そういう時はGPと相談して、他の保湿剤に変更してください。
保湿剤の細菌汚染を予防
保湿剤の入れ物の中に、細菌が入るのを防ぐために、保湿剤を入れ物から取り出す時はスプーンやヘラを使うか、綺麗に洗った手を使ってください。
一度皮膚を触れた手を、洗わずに再度保湿剤の入れ物の中に突っ込むことはやめましょう。
政府のfundingがある保湿剤の一つにSorboleneと言うクリームがあります。
これはポンプ型の入れ物に入っているので、入れ物の中に残ったクリームに直接手が触れることがありません。
すごくベタベタすることもなく、非常に使いやすいと思うので、一度も試したことがなければ、Sorboleneを是非試してください。(私はSorboleneの会社とは何も利害関係はありません。)
2. 抗炎症剤、主にステロイドについて
悪者扱いされるステロイドーその訳は?
ステロイドは、悪者扱いされることが多いようですが、一概にそうとは言えません。
必要な場面では、大変役に立つ薬です。
問題になるのは、長期に漫然と、強さの合わないステロイドを使うことです。
このような使い方をすると、副作用の問題が出たり、ステロイド自体が効かなくなったりします。
このような間違った使い方をされる一番の原因は、
最初に医療従事者が患者さんにちゃんとした教育・説明をしていないことにあるのだ
と私は思います。
日本では診療時間が短いので(私の大学の同級生の皮膚科医は、一人の患者さんの診療時間は数分だと言っていたのを思い出します)、アトピーの子供を持つご両親へ十分説明を行う時間がないのかもしれません。
(もしも「ちゃんと医者にいろいろ教えてもらいましたよ」という方がいらっしゃったら、連絡していただけるとありがたいです。記事を修正します。)
ステロイドの使い方
ステロイドと一概に言っても、それによって強さがかなり違います。
ステロイドの使い方の原則は、
- 保湿剤を使っていても炎症が悪化した時に
- 短期間
- 効果があるステロイドの中で一番弱い物を使用すること(普通は2週間以上必要になることはないです)。
ただご自分の肌の状態をよくご存知で、少し強めのステロイドを1日か2日使っただけで炎症が治まり、それ以上続けなくてもよければ、最初から強めのものを使っても問題ないです。(友人のアトピー・アレルギーの専門家に確認済み。)
もう一つの使い方は、1週間に2回(1日1回、週に2日)続けて、よくアトピーが悪化する場所にステロイドを使い、アトピーが増悪するのを避けるという予防的な使い方です。
この使い方は、どのくらい通常のコントロールが良いかなどいろいろな要素が関わってくるので、興味がある方はかかりつけのGPに行って相談してください。
こちらにアトピーのケアプランをAllergy NZのウェブサイトから載せておきます。
これをGPに記入してもらい、説明をしっかりと理解していただけたら、この先のアトピーの管理に必ず役立つと思います。
とにかく目標は。できれば保湿剤だけで、皮膚が炎症を起こすのを予防することです。
ステロイドを使わないでコントロールできれば一番望ましいですが、炎症が起こったらステロイドを適宜使い、”掻く→ 皮膚がさらに悪化する→ 余計に痒くなる”という悪循環に陥らないようにします。
(また、上記のようにパルス療法が適応になる患者さんもいますが、これも結局はステロイドを連続して使用せざるをえないほど肌が炎症を起こすのを避ける目的に使われます。)
日本からニュージーランドにいらっしゃった方で、「日本からアトピーの薬を持ってくることができるか」とか「同じ薬がニュージーランドにあるか」とおっしゃられる方は、ほとんどステロイドの塗り薬のことを指しているようです。
ニュージーランドにも同じステロイド薬、または代替薬がありますので、日本からの薬にこだわる必要はありません。
興味深いのは、今まで誰からも「日本から保湿剤を持ってきたい」とか「ニュージーランドにも同じ保湿剤があるか」と訊かれたことがないことです。
日本では。どのくらい徹底した保湿剤の使用を医師から指導されているのか疑問です。
3. 誘因になる物を避けること
いろいろなことが、アトピーを悪化させる誘因になります。
肌の温度が高くなったり、乾いた空気の中にいるとかゆみがひどくなることがよくありますし、着る服や下着の素材などで、かゆみがひどくなることがあります。
精神的なストレス、ある種の食べ物などいろいろなものがかゆみや炎症の誘因になるので、自分で心当たりがある場合は、できるだけそれらを避けましょう。
最後に
最近、私のクリニックでは、非常にひどいアトピーの子供はあまり見かけなくなりました。
患者さんやその親への教育がかなり徹底したことに寄るのかどうかは、はっきりはわかりません。
ただ以前に比べ、アトピーの患者さんや子供の親に、どんな風に毎日の塗り薬を使っているか訊いてみると、正しいケアをしている人が増えたように思います。
繰り返しますが、アトピーの管理で最も大切なのは、肌に合った保湿剤を毎日頻回に使うことに尽きます。
これに加え、いかにステロイドを使うかなど、いろいろと患者さんに理解して欲しいことがあります。
この記事で全てをカバーすることはできませんし、この記事はみなさんがかかりつけのGPを受診するのに代わるものではありません。
この記事を読んで(いつも自分がしているケアとは違うなあ)と思われた方、特にご自分やお子さんのアトピーの状態が良くなければ、ぜひかかりつけのGPと話をして、アトピーのケアプランを立て、今までご自分の事やり方とは違うことを、ぜひ試していただきたいと思います。